会社に入った頃に、口酸っぱく言われたのが「三直三現」の実行です。
三直三現は、「直ちに現場に行き、直ちに現物を調べ、直ちに現実に即した対応をする」という意味です。工場のあちこちに「三直三現」の額がかかっていました。何かがあれば、とにかく現場・現物・現実を自分の目で見て(観て)把握して、その場で対応を判断することが大事だということです。

今振り返ると、私の入った工場は私の生まれた年に開業しています。最も古い工場設備でも設置からほぼ20年ですから、今の感覚ではそれほど古い工場でもなさそうです。
しかし、多くの作業が人手を使ったものでした。生産が拡大していくなかで、人を増やしてばかりもいられません。
当時の社長が「無人工場」を目指して、最新のFAを導入した大型工場を建設しました。私の入社したのは、その新鋭工場が操業を始めた時期でした。
ある日の午後10時頃のことです。その工場の制御室に行くと、あるラインを停止する作業に入っています。計画に無いことなので、理由を尋ねると、搬送装置にトラブルがあり切替が出来なくなり製品が滞留してしまった(タンクがいっぱいになった)ので、やむを得ず停止するのだといいます。
現場はきちんと観たのですか?と聞くと、ちょっと曖昧です。制御室を離れられない人以外の全員で、現場に行ってみました。工場の一番高い場所にある搬送装置で、要するに大きな油圧シリンダーでダンパーを動かす仕組みです。
制御室からシリンダーを動かす操作ができない理由が、どこにあるのか今はわかりません。しかし、この場合はダンパーの切り替えができればいいのです。
シリンダーとダンパーの連結を外して、保全室から持ち出した大きなパイプレンチでダンパーを回して切替することにしました。(実際は、センサーなどの制限を解除するような必要もあったと思います。)切替ができるまで1時間くらいかかりましたが、翌朝まで12時間もラインを停めることと比べては大きな違いです。
当時と比べて、DXやらIoTが高度に進歩した現代においても、「無人工場」や「無人運転」はなかなか難しいことではないかと思っています。