社会的習慣や規範意識の変化が物価高に導く~ノルム~

数学・線形代数でベクトルの長さを示す指標を「ノルム」といいます。

 

経済学で「ノルム」とは予想より強い概念で、「社会的な習慣や規範意識」を意味します。米国の経済学者アーサー・オーカン(1928~1980)が提唱したものです。

オーカンは実質GDPの伸び率と失業率の増加率に負の相関があるという「オーカンの経験則」を発見したことで知られています。

 

物価安定(中央日報)
物価安定(中央日報)

昨年4月に日銀総裁を退くとき、黒田前日銀総裁が「長きにわたるデフレの経験から、賃金や物価が上がらないことを前提とした考え方や慣行、いわゆる『ノルム』が根強く残っていた」と発言しました。

 

黒田総裁がめざした年率2%の物価安定目標が達成できなかった原因が「ノルム」だというわけです。

この場合のノルムとは、日本社会が習慣的に保有している「インフレ率はゼロ」「顧客はいかなる理由があっても値上げを容認しない」「企業は何があっても価格据え置きを目指す」という潜在意識のことです。

 

このノルムが変化をしてきました。

きっかけは、ポストコロナ+ウクライナ戦争=円安によるエネルギーコストの値上りであり、原材料コストの上昇です。これにインバウンド需要と、日本をはるかに超える海外の高インフレ情報が流入してきました。最低賃金の引上げで、賃上げも進んできました。

「日本の物価は安すぎる」「安物を買うことに努力するのはムダ」「値上げを認めるのは当然だ」という意識が新しいノルムになりつつあります。

 

日本社会のノルムが変化している一方で、経営者のノルムがなかなか変わっていないように思います。「毎年欠かさず大幅な賃上げするのは当然だ」「コスト増加分を販売価格に転嫁することに躊躇いはない」「いいものを買いたければ高い金を払うのは当たり前」というノルムが定着できるでしょうか?