昨日のブログに関連して、辛酸という言葉があります。
塩酸・硫酸・蓚酸・炭酸・・・の仲間ではありません。昨日の葉酸はビタミンでしたが、化学物質ではありました。しかし、辛酸はモノではありません。辞書で調べると「辛く苦しいこと」とでてきます。「辛く苦しいことを経験する」には、辛酸を嘗めるといいます。しかし、辛酸が何かははっきりしません。
似た意味で、「臥薪嘗胆」があります。こちらは、薪(たきぎ)の上に伏して寝て、苦い肝を嘗めながら、将来の成功を目指して苦しさに耐えるという意味です。わかりやすい。
さて、辛酸という言葉の本邦初出は菅原道真公なんだそうです。いや~、官公さんは、いろんなところに登場しますね。
菅原道真公(845~903)は、学者として、歴代天皇に重用されて右大臣にまで出世します。しかし、これを妬んだ藤原時平の中傷によって、901年に大宰府に流されます。
道真が、大宰府で亡くなるまでの2年間に創作した漢詩46編を記した「菅家後集」が残っています。このうちの一編に辛酸がでてきます。
「読楽天北窓三友詩」というのが題です。
楽天が北窓の三友に詩を読む:楽天は唐の詩人、白楽天=白居易のことです。北窓の三友は琴と酒と詩の三つのことで、白楽天は生涯この三友をよき友とし、よき師としました。
道真はこの詩で、私には琴と酒という友はいない。ただ、詩だけが友だが、悲しい友だと悲嘆の気持ちを語ります。流された大宰府で、ともに流されてきたはずの家族とは別々に幽閉された状態にあるので、当たり前の感情でしょう。
さて、辛酸がでてくるところです。
「重関警固知聞断 単寝辛酸夢見稀」
重関(二重になった関門)で警固され(閉じ込められ)知識や情報が断たれている。
(家族と離れ離れで)一人で寝て、辛酸(辛く苦しくて)夢を見ることもほとんどない。
功成り名を遂げた老人の詩です。ちょっと、切ないですね。
注)単寝は草寝(草のように粗末な夜具で寝る)かもしれない。