PFAS許容濃度超過報道。先ず落ち着いて心配すること

PFASによる環境汚染や健康被害への懸念についてニュースで取り上げられます。ちょっと整理しておきますね。

 

PFASは、有機フッ素化合物のうち、ペルフルオロアルキル化合物及びポリフルオロアルキル化合物の総称です。1万種類以上の物質があります。

そのうちで懸念の対象となるのは、PFOS(ペルフルオロオクタンスルホン酸)とPFOA(ペルフルオロオクタン酸)など数種類です。PFASには、フッ素樹脂やフッ素ゴムも含まれますが、懸念の対象ではありません。

 

帽子屋
帽子屋

PFOSは、半導体用反射防止剤・レジスト、金属メッキ処理剤、泡消火薬剤などに、PFOAは、フッ素ポリマー加工助剤、界面活性剤などに主に使われてきました。

 

PFOSとPFOAは、コレステロール値の上昇、発がん、免疫系等との関連が報告されています。但し、その機構や、どの程度の量が身体に入ると影響が出るのかについては十分な知見はありません。

 

予防安全の考え方から、国際条約でPFOSは2009年、PFOAは2019年からに廃絶することになりました。 日本ではPFOSは2010年、PFOAは2021年以降、製造の輸入もされていません。この処置によって、日本の環境中(河川・湖沼・地下水)のPFOSとPFOAの濃度は経年的に減少しています。

PFOSやPFOAは代謝されにくいですが、徐々に体外に排出されます。人や生物中で検出されるPFOSやPFOAは減っています。

 

PFOSとPFOAの水道水や水域での暫定基準値は、合計値50 ng/L以下です。この基準値を超えていると大きく報道されます。

 

 

ng(ナノグラム)は10億分の1グラムのことです。1Lは約1000gですから、 ng/Lはpptとも表され”1兆分の1”の意味です。よく聞くppmが100万分の1,たまに聞くppbが10億分の1です。pptはあまり聞きません。

 

1pptは、東京ドームをひっくり返して水で満たしたなかに、小さじ一杯(1g)の物質を溶かしているのをイメージです。基準値の50pptでも、オリンピックプールに耳搔き1杯(0.1g)の物質を溶かしたイメージです。

 

さて、この基準値の決め方ですが、人を対象とした安全性のデータは無く、また実験することもできません。マウスなど実験動物に対してPFOSとPFOAをそれぞれ摂取させて調べます。

 

マウスに与えるPFOSやPFOAの量はずっと多い量です。与えた量によってマウスの体重変化など影響が異なります。その影響度をグラフに並べて、ずっと外挿すると有害な影響が出ないだろうと思われる最大値が推定されます。

 

この推定値に、主や個体の違いを勘案して1/100を掛けて、さらに実験の不確実係数をかけたものを、人の許容摂取量とします。 PFOSとPFOAの場合は、 20 ng/kg体重/日です。

体重50㎏に人なら、1日に1000ng=1.0mg(1グラムの1000分の1)に相当します。

 

水道水や水域の暫定基準値は50 ng/Lですから、1日に20Lの水を飲むと許容値を越えます。これは、1日に2Lの水を飲んだ場合を想定して、安全率を10倍としているからです。

しかも、PFOSとPFOAのそれぞれの許容値ですが、日本の暫定基準値はPFOSとPFOAとの合計値になっています。これも安全サイドにみてのことです。

 

まぁ、いろいろ書きましたが、暫定許容値を超えているという報道に驚いて、大げさに心配することはないですよ、ということです。

プールに耳搔き1杯でも測定できる化学分析技術(液体クロマトグラフ質量分析計)の進歩の方にも驚いてください。

 

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