都市型水害は内水氾濫と外水氾濫の相乗作用が恐ろしい

1999年6月29日(火)の朝に、宿泊していた博多駅近くのビジネスホテルにタクシーを呼んでもらいました。

 

勤めていた工場で、ISO14001の認証を取得することになり管理責任者をしてくれといわれました。そこで、ISO内部監査員養成講習を受講して規格の全体を知ろうと考えて申し込みました。その講習会が1999年の6月18・19日の2日間ありました。会場は博多駅から歩いて行けるビルの2階にある貸会議室みたいなところです。

 

福岡市の内水氾濫(1999.6)
福岡市の内水氾濫(1999.6)

1日目の講習が終わり、いろんな会社の人が集まっているので、まぁちょっと・・と博多の味を満喫した翌朝のことです。

 

梅雨前線が九州北部から山口県にかけて停滞して、土砂降りの雨になりました。ホテルのフロントの人が、「歩いていくと大変だからタクシーを呼びましょう」と、奨めてくれました。

タクシーはすぐに来て、運転手さんに「近くですみません。それにしても凄い雨だけど大丈夫ですか?」と訊ねたら、「いや~何てことないですよ」との返事です。

 

安心してタクシーに乗ったら、ほどなくして渋滞で動けなくなりました。するとあっという間に道路に水が浮きはじめ、みるみるうちに水位があがります。タクシーのなかにも水が入り始めると、ついに車体が浮かんで道路脇へと流れていきます。

運転手さんが「すみません。もうムリです」というので、ズボンの裾を捲り上げて講習の会場に歩いていきました。この時点では、もう雨も小降りになってきていました。

 

都市型水害には「内水氾濫」と「外水氾濫」の二つの要素があります。

「内水氾濫」とは、下水道等の排水施設の能力を超えた雨が降った時や、雨水の排水先の河川の水位が高くなった時等に、雨水が排水できなくなり浸水する現象をいいます。

 「外水氾濫」とは、川の水が堤防から溢れる、あるいはそれによって川の堤防が破堤し た場合に起こる洪水のことをいいます。

 

この日の雨は、降り始めから2時間余りで止みましたから、ごく短い時間です。この2時間に福岡市ではおよそ110㎜の雨量を観測しています。大量の雨が降ったことに、配水先の御笠川の水位が上流の太宰府市などでの降水に影響で高くなっており、さらに博多湾がちょうど満潮時にあたったことも重なって、内水氾濫が発生したようです。

 

当時、福岡市の下水道の排水能力は時間雨量52㎜で設計されていたそうです。市内34カ所にポンプが設置されて排水する仕組みですが、間に合わなかったわけです。

 

雨が弱くなってから、今度は福岡市内を流れる御笠川で溢水が発生します。「外水氾濫」です。

 

大量の氾濫水は、都市の誇るオシャレな地下空間に流れ込みます。痛ましいことですが、博多駅近くのビル地下では、水死事故も発生しました。

 

大都市中心部は低平地にあり、街も流れる中小河川もコンクリートで固められています。計画している以上の雨が降れば、「内水氾濫」が発生します。

東京都の資料によると、区部では時間雨量60㎜までは浸水被害がおこらないように設計し、時間雨量75㎜までは床上浸水を防ぐというのが基準のようです。

 

これに、中小河川の溢水による「外水氾濫」が加わると、ごく狭い範囲を大量の氾濫水が襲います。地下空間を水が満たすと、生死にも関わる事故にもつながるわけです。

 

もはや気候変動が止まることはありません。時間雨量がいくらだから安心という時代でもないので、「命を守る行動」が大事です。