AIによる誤訳が世界を変えるかも

『中国、上川外相発言を無断修正 日本「不正確」申し入れ』したという報道です。

 

国同士のやり取りでは翻訳の過程でいろいろな修正がおこなわれることがあり、ときには大きな問題に発展することもあります。今回の上川外相の発言の修正も中国側からみるなら、あまり違和感はないのではないか?と思います。

 

有名な通訳
今年最も有名になった通訳者

翻訳による誤解で有名な出来事です。

☞ クリムゾンジャパン 2020.10.14 原爆投下は、たった一語の誤訳が原因だった!? から引用。

 

太平洋戦争末期の1945年7月26日に連合国は日本に無条件降伏を促すポツダム宣言を送りつけました。

 

これに対して、鈴木貫太郎首相は「黙殺する」とだけコメントしました。「黙殺する」を辞書でひくと、「知っていながら問題にしないで無視すること」とあります。日本語のニュアンスとしては、すぐには対応できないので、ちょっと放置しておくというイメージです。

 

この「黙殺する」を日本の新聞社は「ignore it entirely(完全に無視する)」と訳し、海外の新聞では「reject(拒絶する)」と訳されました。このとき、もし「no comment(ノーコメント)」か「take no notice of it(気に留めない)」と訳してあれば、広島や長崎への原爆投下はなかったのかもしれません。

 

中国関連で有名なものに、毛沢東の「和尚打傘」発言があります。

☞ 東洋証券 ひと息コラム「和尚打傘」とかけて を参照。

 

1970年12月の中国では、死者1千万人、拘束された者延べ1億人、経済損失5千億元といわれる文化大革命が荒れ狂っていました。そのさなかに毛沢東が米国人ジャーナリストのインタビューに応えました。

 

このとき毛沢東は、自分のこと「和尚打傘」だと言いました。

これを通訳は「私は傘をさす僧侶だ」と訳したのです。さらにジャーナリストはこれを意訳して「私は破れ傘を手にした孤独な修行僧にすぎない」と世界に発信しました。

この誤訳が、1971年7月にキッシンジャー訪中、72年2月のニクソン訪中、9月の田中訪中と、西側諸国との関係改善につながったとされています。

  

「和尚打傘」は中国でよく知られた表現で、髪の無い僧が傘を差すと「无发无天」(髪がなく空が見えない)と「无法无天」(無茶苦茶をやる)と同じ音になることから、「好き勝手なこと、出鱈目なことをしてきた乱暴者」という意味です。

毛沢東は正直の自分のことを語ったわけですが、世紀の誤訳が世界の歴史を変えたわけです。

 

AIによる文章翻訳や即時通訳が一般的になってきました。これは、誤訳のリスクを高めていることも意識しなければならないように思います。