製造受託会社(A社とします)の場合、委託元会社(B社)から材料を有償支給される場合、無償支給される場合の、2通りがあります。
有償支給にも2つあって、A社がB社から材料を有償で購入する場合、A社が、B社から支給指示を受けた別の材料商社(C社)から有償で購入する場合があります。特に前者の、「B社が自ら調達した材料をA社に販売し、その材料を使って製造した製品をB社が買い取る」取引の仕方をバイセル取引と言います。
A社にとっては、無償支給の方が在庫管理も簡単で好ましいようですが、有償支給にして見掛けの売上高を膨らますことを希望する場合もあります。
右の図のような取引、材料費が100円で加工賃が30円で加工賃の利益率が20%(6円)というケースを考えます。
年間1万個の製造をした場合、材料が無償支給の場合、A社の売上高は年間30万円で、利益は6万円になります。一方で、有償支給の場合、A社の年間売上高は100万円増えて130万円となり、利益は同じく6万円です。売上高30万円より130万円のほうが見栄えが良いです。
売上高が多いことが、金融機関からの融資にも好影響を与えるかも知れません。しかし、バイセル取引の場合は、実際にはキャッシュの移動はありません。A社はB社に材料費を支払わずに製品を納めるときに相殺するのです。つまり、運転資金の必要は加工賃に係る部分だけというのは変わりません。
このバイセル取引は不正会計の温床になりやすいことも注意です。15年位前から、東芝は数々の不正会計の手練手管を駆使しましたが、このバイセル取引もその一つです。
一例とすれば、B社が材料商社(C社)から50万円で調達した材料をA社に100万円で販売(有償支給)したとすると、B社に50万円の利益が一旦上がります。
A社からの製品買取を翌期に繰延すれば、当期のA社に利益に、まるまる50万円が計上できるというわけです。まぁ、翌期になれば消えてしまう利益なので、その場しのぎにしかなりませんが、やってしまうのです。さらに、C社から材料を50万円で調達したものを、支払いを遅らせて当期には一部しか計上しないといった操作をすれば、当期利益はもっと膨らみます。
もちろん、これらは正しい会計処理では無いのですが、やっている会社は今でもかなり多いように思います。