「天災は忘れたころにやってくる」と語ったのは寺田寅彦です。
寺田寅彦は1878年(明治11年・寅年)生まれなので、関東大震災は44歳のときです。寺田は、夏目漱石と親しい随筆家や俳人としても著名です。「吾輩は猫である」の水島寒月のモデルでもある。しかし、寺田の業績の中核は地球物理学です。関東大震災のメカニズムなどを詳細に調査しています。地震予知に関する研究でも、多くの業績を残しました。
関東大震災からちょうど100年。防災の日の新聞やテレビでは、近い将来に必ず起こる首都直下地震の被害想定を伝えています。
現在は、政府が2019年に発表した死者2万3千人、経済損失95兆円という想定があります。政府は4年振りに、この想定を見直すという報道が一部にありました。
現在想定されている死者数も経済損失も、随分と大きいので、泉下の寺田寅彦先生に叱られそうです。
寺田寅彦の著作より・・
「地震の恐るべき事、即ち震災の程度は目下のところ文明の程度と共に増進している。殊
に理学的基礎を有せざる文明国の大都市にありては、その被害甚だ大にして到底古人の想
像だも成し得ざる所である」
「ここで一つ考えなければならないことで、しかもいつも忘れられがちな重大な要項があ
る。文明が進めば進むほど天然の暴威による災害がその劇烈の度を増すという事実であ
る」
「人類がまだ草昧の時代を脱しなかったころ、岩丈な岩山の洞窟の中に住まっていたとす
れば、たいていの地震や暴風でも平気であったろうし、これらの天変によって破壊さるべ
きなんらの造営物をも持ち合わせなかったのである」
「日本国民のこれら災害に関する科学知識の水準をずっと高めることが出来れば、その時
に初めて天災の予防が可能になるであろうと思われる。この水準を高めるには何よりも先
ず、普通教育で、もっと立入った地震津波の知識を授ける必要がある」
「あらゆる災難は、一見不可抗的のようであるが実は人為的のもので、したがって科学の
力によって人為的にいくらでも軽減し得るものだという考えを、もう一遍ひっくり返して、
結局災難は生じ易いのにそれが人為的であるが為に却って人間というものを支配する不可
抗な方則の支配を受けて不可抗なものであるという、奇妙な廻りくどい結論に到達しなけ
ればならないことになるかも知れない」
「火事は人工的災害であって地震や雷のような天然現象ではないという簡単明瞭な事実す
ら、はっきり認識されていない。火事の災害の起こる確率は、失火の確率と、それが一定
時間内に発見され通報される確率によって決定されるということも明白に認められていな
い。火事のために日本の国が年々幾億円を費やして灰と煙を製造しているかということを
知る政府の役人も少ない。火事が科学的研究の対象であるということを考えてみる学者も
まれである」
寺田寅彦は、災害は自然現象ではなく社会現象であると言います。地震や豪雨による災害を社会現象であると正しく捉えることを、きちんとできているか省みないといけません。
参照文献:「天災は忘れた頃来る」のなりたち 初山高仁(2017)