最近あまり聞きませんが「エンゲル係数」というものがあります。
エンゲル係数は「家計消費支出に占める食費の割合」です。19世紀のドイツの統計学者エンゲルが発見した「貧しい家計ほど総支出のなかでより大きな割合が飲食費に費やされる」という規則性があります。そこで、社会の貧しさの指標としてエンゲル係数というものが使われてきました。エンゲル係数が高いほど貧しいという理屈です。
日本のエンゲル係数は上昇傾向にあります。2人以上世帯の家計消費支出に占める食費の割合をエンゲル係数とするなら、2019年から2021年は28%台で推移しています。
同じ時期に、米国は15%台・ドイツは18%台・英国が22%台・フランスが24%台で、日本と同じくらいなのはイタリアくらいです。
但し、注意が必要なのは食費とは何かという定義が各国で完全に同じではない(食費には外食費や酒類も含むのですが、外食費をどう定義するかなど難しい)ので、単純に比較してよいかというと違います。
そして、日本のエンゲル係数が高くなっているから、日本人が貧しくなっていると早合点してはいけません。実は、世帯の家計消費支出でなく可処分所得に変えてみると、食費の割合はほとんど変わっていません。
つまり、食費が増えているのではなく、食費以外の家計消費が減っているのです。
よく子育てにお金がかかるとか教育費の負担がたいへんだとか言われますが、子どもの数が減っているので、子育て支出そのものは減っています。簡単に言えば、今の日本の家計は、消費先が無いのです。その結果、家計では貯蓄がどんどん増えているというのが実態です。
2人以上世帯の平均貯蓄額は2021年では1880万円で前年より89万円も増えています。
さらに、エンゲル係数を構成する食費でも、穀類・魚介類・野菜海藻・果物などの支出は減っています。増えているのは油脂調味料・菓子・調理食品・飲料です。
外食はコロナ騒動で2020年以降に激減しました。つまり、エンゲル係数の上昇から、日本が貧しくなったということは言えないのです。
何となく確からしいデータを提示されて、変に惑わされることのないように、気をつけたいものです。