敬天愛人は西郷隆盛が好んだ言葉として有名です。今週、敬天愛人を社是とされている会社のお仕事をしました。
敬天愛人は中村正直という人の考案だそうです。「敬天」と「愛人」と「敬愛」という、それまでもよく使われていた言葉をくっつけたことに創造性があるということです。中村正直は明治の思想家としては福沢諭吉と双璧を成す方だそうです。ところが、福沢と中村では知名度の大きな差があります。福沢が西洋思想をほとんど無批判に取り入れたことに対して、中村は西洋と東洋の思想を良いとこどり、あるいは超越しようとしたということです。
「敬天愛人」は、中村が西洋と東洋を超越して示した人類共通の普遍的概念です。
「敬天」は天を敬うです。もともと儒教の言葉だそうで、その場合の「天」は人間の生命や性質を授ける存在です。西洋では天は全知全能の「神」です。
天に対して抗ったり逆らったりすることはできません。老子がいう「無為自然」の態度で敬うことが肝要です。
「愛人」は人を愛するです。儒教では愛人は「仁」あるいは「仁愛」と言い替えられます。西洋では「博愛」です。微妙に意味は異なりますが、中村は学問や思想においては「求同棄異」という態度が正しいと言っていますから、それも飲み込んだということでしょう。
「敬愛」は敬って愛すること。つまり、尊敬し親しみの気持ちを持つことです。似て非なる言葉に「愛敬」があります。こちらは、愛して敬うこと。うまく使い分け出来ればいいですね。
さて、山口市の菜香亭には「敬天愛人」の額が飾られています。西郷隆盛の弟、西郷従道の筆によるものです。堂々たる墨跡の優れた書です。是非、ご覧ください。
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