日本の半導体産業は1980年代後半は世界シェアで50%を超えていましたが・・・
現在の日本のシェアは10%ほどにまで減っています。日本に替わってシェアを伸ばしたのが、米国、韓国、台湾、そして中国です。これをもって「まことに嘆かわしい、日本の敗北だ」という人がいます。ちょっと、違うのではないか?と思います。
日本のシェアが落ちているのは、半導体の市場規模が大きくなっているからです。
1990年に世界の半導体出荷額は、570億ドル≒8兆円だったのですが、2021年には6500億ドル≒85兆円になりました。
この規模になると、日本一国が半分を担うことはできないので、シェアが下がるのは、当然のことです。そして、日本の半導体生産が1990年と2021年を比較して減っているわけでもないのです。
もし、日本の製造業が半導体生産に注力して、シェア50%を維持していたとします。今年の半導体出荷額が、年間40~50兆円とかです。これは、日本の製造業の総出荷額が320兆円くらいですから、1/8に当たります。
半導体産業には、シリコンサイクルとして知られる概ね4年周期の景気変動があります、製造業の1/8が大波に揺さぶられるようでは、日本国民の生活は安定しません。
一方で、半導体製造装置については、日本が支配的な地位を保ってもいます。半導体市場シェアは10%でも、半導体製造装置の核心的な部分は日本企業の競争力が強いのです。
半導体の製造前工程は10~15の工程に分けられますが、この各工程で使用される製造装置の全てを国産で調達できるのは日本だけです。さらに、このうち4~5工程では日本メーカーのシェアが90%を超えています。
☞ EE Times Japan 「 半導体製造装置と材料、日本のシェアはなぜ高い? 」
さらに、韓国への輸出規制の厳格化(輸出を制限したのではないので注意ください)で話題になったように、半導体素材ではほぼ全ての材料で、日本メーカーがトップシェアです。韓国も結局のところ、日本から輸入しています。☞ 中央日報日本語版 日経「輸出規制3年…韓国、半導体素材の国産化は足踏み」
まぁ、このあたりまでは日本の製造業といっても大企業の話ですが、半導体製造装置では重要なサブシステムというものがあります。このサブシステムを担っているのが、日本の中小企業です。「下町ロケット」で登場した佃製作所のロケットの燃料バルブを思い出してもらえるとよいです。流体制御のバルブにはじまり、ポンプやコントローラー、多様な機械要素部品、専用の治工具などは、日本の町工場のお家芸です。
先の記事の中で、半導体製造装置でもプラズマを使う真空装置に関係する日本のシェアは低いという指摘がありました。しかし、エッチングなどに使われるターボ分子ポンプを世界トップ6には日本企業が3つ入っています。
シェア1位は島津製作所です。☞ シリーズ島津遺産「デジタル立国日本の影の立役者 半導体製造を飛躍的に前進させたTMPとは」
他の日本メーカーは荏原製作所と大阪真空機器製作所です。島津と荏原は知名度もありますが、大阪真空を知っている人は少ないでしょう。社員200人、年商60億円の、この会社の技術がないとつくれない半導体があるというのが、日本のものづくりの強みであり、おもしろいところなのだと思います。☞ 株式会社大阪真空機器製作所