電気自動車が電力ひっ迫の救世主になれるか?

電力ひっ迫ですが、原子力発電も火力発電も反対!といわれているので、困っています。 

 

日本は、再生可能エネルギーで大半の電力を賄うように転換するべきだったが、政府の無策でできなかった、とテレビで声高に非難する人もいます。なんでも政府のせいだという例の人です。この人にかかると、くだらないテレビ番組ばかりが増えたのも、政府が無能だからとなるのです。まぁ、一定の真実はあるのかも知れないですが・・???? 

 

日産リーフ(電気自動車)
日産リーフ(電気自動車)

それはさておき、再生可能エネルギーとは、日本では太陽光発電を指すことが多いです。海外では、再生可能エネルギーとは、ほぼ水力発電(一部の国では風力も)のことです。日本はダム建設も反対なので、水力を増やすのは難しいですし、風力発電も好立地が少ないうえに環境被害も甚大です。

 

日本人は、こうしようと決めたら、必ず達成する国民性があります。東日本大震災から10年余り、日本は太陽光発電大国になりました。

 

日本(設備容量:78.2GW:2021年以下同じ)より太陽光発電の設備容量が大きいのは、中国(308.5GW)と米国(123GW)だけです。中国も米国も広大な砂漠にソーラーパネルを並べましたが、日本は大事な畑や美しい里山を、黒いパネルで埋め尽くしてソーラー大国を達成しました。

 

日本では、太陽光発電設備をつくり過ぎました。ソーラーパネルが、お陽様がでたときに勝手気ままに発電した全量を、電力系統が受け入ることができなくなっています。一方で、電力が欲しい暑い夕方にはソーラーパネルは発電をしません。気温が上がると発電量が下がります。

 

そこで、蓄電池で電気を貯めればよいのだということになります。ちょっと、怖いのは、日本人は蓄電池の大量設置を本当にやっちゃいそうなことです。

電気というエネルギーを貯める蓄電池は、大容量のものは危険です。iPhoneの電池は燃えても、リュックサックを焦がすくらいで済みますが、大型の蓄電池はきちんと管理しなければ危ないです。日本以外の国では、感電して亡くなる人は多いので、電気の怖さはよく知られていますが、安全性能の我が国では、電気は単に便利なものという認識です。

 

そこで、電気自動車を普及させて、分散型の蓄電池として使えばよいということにもなります。新型の日産リーフは、世界で最も優秀な市販電気自動車です。電池は60kWhの大容量で、航続距離550km(JC08モード)を誇ります。電池重量は440㎏です。

 

電力ひっ迫を緩和させるだけの蓄電池容量をまかなうには、リーフは何台要るのでしょうか?

東京エリアの今日のピーク電力需要が5238万kWでした。東電などが6月に普通に供給できる電力量は4700万kW程度だそうですから、500万kWが不足しています。

 

最低限2時間分で1000万kWhの蓄電池と考えれば、1000万÷60=約17万台のリーフがフル充電且つ走行しない状態で、蓄電池として確保されていればよいということになります。まぁ、移動に使うべき自動車をそんな状態で置いておく酔狂な人も少ないでしょうから、実際はこの数倍のリーフ(例えば100万台)が東京エリアで普及しなければならないでしょう。

 

1台450万円ですが、補助金が80万円でます。それでも日本全体で昨年の販売台数は1万台ちょっとに留まります。リーフを普及促進すると100万台のリーフは4.5兆円となり、補助金が8千億円です。普及のために補助率を2~3倍にしても、政府が出せない金額ではないです。送電インフラなどの投資金額も不明ですが、まぁ何とかなるでしょう。

 

100万台のリーフには、100万×440㎏=約44万トンの蓄電池(リチウムイオン電池)が載っているわけです。このうち本来の電池部分(金属)を60%とすると約25万トン。このうち約13万トンがコバルトで、金属リチウムは2万トンくらいでしょうか?

 

コバルト資源問題も憂鬱ですが、コバルトを使わないとか削減するとかの道が無いわけではないでしょう。一方で、リチウムを使わないリチウムイオン電池は無いので、リチウム資源について調べますと、1年前ですがわかりやすい記事がありました。

☞ 東洋経済 2021/05/21 EV電池に必須の「リチウム」の確保は大丈夫か~脱炭素のカギ握る資源をめぐる大問題~

 

金属リチウム2万トンは、資源である炭酸リチウムだと約10万トンに相当します。2020年の世界の年間採掘量が45万トンでしたから、20%強にあたります。コストは、1トン1万ドルとして10億ドル(1300億円)で、日本が買いに出て、2倍になったとしても2500億円。これも出せない金額ではないですね?

 

ということで、「電気自動車で万々歳!!」とならないのが、資源問題の難しさです。

詳しくは、記事を読んでもらうとよいのですが、資源が南米とオーストラリアに偏在している問題だけでなく、炭酸リチウムを製造する際に排出される大量の温室効果ガス、大量の酸性廃液や残渣などによる環境汚染などがあります。

結果として人権を抑圧できる中国からしか炭酸リチウムは調達できず、現在でも中国依存度が5~6割(今後は更に高まる)になることから、経済安全保障の課題をどうクリアするのか?は重要(まぁ、クリアすることはできないのですが・・)です。

 

エネルギー問題にはベストプラクティスはなく、多くの手立ての組合せによって最適な状況をつくり出すものだと思いますが、なかなか難しい問題です。