知床の遊覧船沈没事故では、KAZUⅠは遭難時の通信手段を事実上持っていませんでした。
海は未経験なので、山について警察庁の報告書(「令和2年における山岳遭難の概況」)を見てみました。令和2年の遭難件数は2,294件で、通信に携帯電話を使用したのは79.1%に当たる1,815件でした。今の時代、携帯電話を持っていない人はいないので、使える状態であれば使ったのではないかと思います。
逆に言えば、携帯電話の通話エリアが大幅に拡大している(NTTドコモなどが、主要な登山道をほぼ通話エリアにしている)現在においても、約2割の遭難では携帯電話が利用されなかったということです。
携帯電話が使えなかった理由は、電波の圏外というだけでなく、電池切れだったとか、転落などで気を失って携帯電話を取り出せなかったとか、いろいろな原因があると思います。
いずれにしても携帯電話があるから安全ということは、決してないと心得るべきでしょう。
この統計で少し驚いたのが、無線での通信が22件あったことです。遭難件数の1%と少ないのですが、増えているようです。もちろん、携帯電話のなかった時代は無線機(トランシーバー)を持っていっていたので、驚くことではないですが、ちょっと意外です。北海道の山岳では、携帯電話の通話エリアが限られるので、今でも無線機は必須と聞いたこともあります。
さて、令和2年の山岳遭難での死者・行方不明者は278人(死者241人+行方不明37人)のうち、73%にあたる202人が60歳以上の高齢者です。また、62%に当たる172人が単独行の登山者です。高齢者の単独行は危険ですから、よく準備することが大事です。
知床遊覧船事故が、遭難時の通信について考え直すきっかけになったと思います。海でも山でも、基本は、熟練した技術・しっかりした装備・綿密な計画・緊急時のセーフティネットの全てが揃っていることです。