サンドイッチ伯爵が考案したからパンに具を挟んだ料理?をサンドイッチというように、料理を創作した人の名前が料理名になるときがあります。
ストロガノフ伯爵がつくったビーフ・ストロガノフ、ドイツの料理人フランツ・ザッハーが考えたザッハ・トルテ、イタリアの画家カルパッチョが考え出したカルパッチョ、フランスのマドレーヌさんが創作したマドレーヌ、上野精養軒の林シェフが考案したハヤシライス・・・(まぁ、諸説あるものが多いので本当は違うかも知れません)
麻婆豆腐は麻婆が考案した料理となっています。麻婆は中国四川省成都の陳春富の妻と言われます。この「婆」は老女のことではなく、年齢に関わらず”妻”のことです。
成都銀行の要職にあった周詢という人が『芙蓉話旧録』に、次のように書いています。
又北門外有陳麻婆者、善治豆腐、連調和物料及烹飪工資一并加入豆腐価内、毎碗售銭八文、兼售酒飯、若須加猪・牛肉、則或食客自携以往、或代客往割、均可。其牌号人多不知、但言陳麻婆、則無不知者。其地距城四五里、往食者均不憚遠、与王包子同以業致富。
北門の外に陳麻婆という者があった。豆腐をうまく調理した。材料費と手間賃込みで豆腐を椀 1杯あたり 8 文で売った。酒も飲めた。豚肉や牛肉を加えたいと思ったら、客が肉を持参するか、店員が客の代わりに肉を買って来ても良い。人々は店名を知らない者が多かったが、ただ「陳麻婆」と言えば、知らない者はなかった。成都城から 4・5里(約2㎞)ほど離れた地にあったが、食べに行く者は遠いとは思わなかった。王包子の店と同じように繁盛した。
(※清の時代の1里は約500m)
麻婆豆腐という料理名は日本だけでなく中国でも一般的だったのですが、最近の中国では麻辣豆腐と言うことが多いようです。実は「麻」に「痘痕(あばた)」という意味があって、麻婆が「あばた面の老女」と連想されて嫌う人があったからだそうです。
「麻」には、繊維の麻という意味のほか、しびれる・ピリピリするという意味と、ざらざらする・斑点がある・くぼんでいる・あばた・えくぼといった意味があります。
先に書いたように婆は若くても妻には使います。麻にはえくぼという意味もあります。
麻婆を「えくぼのかわいい奥さん」と考えたほうが良さそうに思います。そうじゃなければ、男たちが2㎞も歩いて麻婆豆腐を食べには行かないですよね。
歩いて行ったからには歩いて帰らないといけないわけですし・・。