宇部市のお隣、山陽小野田市には硫酸町があり、硫酸瓶が街を飾っています。
東京都港区の東京メトロ白金高輪駅で24日夜、男性会社員(22)が硫酸とみられる液体を顔さどにかけられて大やけどを負った事件がありました。テレビで、硫酸のように危険な薬品は鍵を掛けたロッカーに保管して、記録簿をつけて、厳密に管理しなければならない、なんて言っていました。ちょっと、あっけにとられます。
硫酸は日本で年間646万トンも生産されています。酸性の薬品として塩酸(155万トン)や硝酸(30万トン)より生産量が多いだけなく、苛性ソーダ(水酸化ナトリウム:393万トン)やアンモニア(78万トン)よりも多く、無機化学工業品の王者です。
有機化学工業に広げても、エチレン(594万トン)を抑えて1位の座をキープしています。
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硫酸は最も利用範囲の広い化学薬品です。直接目に触れる機会はありませんが、衣食住あらゆる分野で硫酸を使わないでできているものは少ないでしょう。化学繊維・合成繊維を通しての衣料、化学肥料を介しての食料、酸化チタン・酸化鉄など顔料を使う住宅などです。
私の勤めていた工場でも1日に10トン以上の硫酸を使っていました。例えば、酸化鉄を合成する原料には鉄を硫酸で溶かして硫酸鉄の溶液をつくります。
山陽小野田市には硫酸町という町もあります。明治時代から日本舎密株式会社(現在の日産化学)が硫酸製造を手掛けていました。硫酸製造は日本の近代化の証です。
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山陽小野田市は古来から陶器の生産が盛んな地域でもありました。西日本では、陶器を焼くところを皿山と言いますが、明治以降この地域の皿山では硫酸瓶が盛んに造られていました。
変なことを言いますが、硫酸に罪はありません。硫酸がなければ、どんな人であっても1日も生きてはいけません。気づいていないだけです。
犯罪に使うコト(あるいは犯罪を犯すヒト)がいけないのであって、そのモノが悪いわけではないのです。もちろん、モノはきちんと管理をしなければなりませんが、硫酸は国内で最大の生産量がある化学製品です。恐ろしいだけでなく、身近に感じることも大事です。