人が感じる時間の長さと、実際の時間の長さにはズレがあります。そのズレの方向と長さは年齢によって変わります。
実験の結果が知られています。簡単な装置があって「ブザーを鳴らすので、30秒経ったら、このスイッチを押して音を消してください」と指示をします。20歳代の人は平均29.4秒でスイッチを押しました。年齢が上がるにしたがってスイッチを押すまでの時間が短くなります。80歳代では平均が15.5秒でした。
さらに「5分(300秒)経ったら・・」という実験をすると、80歳代の人では2分30秒を超えて押す人はごく少数でした。
年齢が高くなるにつれて、主観的時間は加速していきます。実際の時間の長さより、自分が感じる時間の長さが短く感じるようになります。主観的時間の加速は50歳くらいになれば、はっきりみられるようです。また、この主観的時間の加速は、知能水準や社会的地位との関係がほとんどないこともわかっています。誰しも、年齢とともに主観的時間が加速していくのです。
ビジネスをしている人は、年齢が上がるにつれて自分の時間感覚が、実際の時間の流れとズレてきていると意識をしなければなりません。
経営者や事業主は意思決定をします。そのときの判断は、その時点で最適なものでなければならないわけです。遠い過去のことを、近い経験と勘違いしていないか?という自己チェックを常にすることです。
グラフはある業界の小売売上高を経済センサスからグラフにしました。高度成長期からバブル期まで一貫して規模が伸びています。その後、急激に売上高は減少して、最盛期の1/3になりました。2010年以降は再び増加に転じます。現在では、屈指の成長産業になっていて、コロナ禍で他の産業が苦境の中でも、成長を続けています。
こうした事例はたくさんあります。若い人であれば、この産業を成長産業ととらえて魅力があると考えます。40歳代までの人にとって、バブル期は教科書で学ぶ歴史(もっと若い人には、リーマンショックだって歴史です)にしか過ぎません。私たちにとって、高度経済成長やオイルショックが歴史上の出来事であるのと同じです。
この業界は、挑戦するに値します。しかし、最盛期を知る人にとっては、最近になって少しくらい戻しても、せいぜい往時の半分です。この先もどうなるかもわからない、衰退産業だと考える人もたくさんいます。まぁ、どちらの考え方も一理あります。
高齢化が加速する日本では、主観的時間の加速も避けられません。しかし、時間はあらゆる人にとって(若い人も、老いた人も)平等です。自分の主観的時間を緩和するように、意識することは大事だと思います。
これからの人生も意外に長いですし、1年・1月・1日・1時間も、自分が感じるよりもずっとずっと長いのです。逆に、経験したことは、現在とは遠く離れた、ずっとずっと古い昔のことだったのです。