NHKの囲碁将棋番組に、今年からAIによる勝率評価が表示されるようになっています。
テレビ画面でAIの形勢判断がわかるというのは、画期的なことです。素人が、ぼんやり見ていると、解説の方が「ほ~、これは勝負手です!いや~気づかない手です。いい手のように見えます」と話しています。しかし、たいていの場合AIの形勢判断は相手側が有利に大きく触れます。つまり、勝負手をAIは悪手と判断したわけです。
勝負手を打つというのは、自分が不利な状況です。有利な戦いであれば、その有利を確実に拡大していけばよいのですから、勝負手を打つ必要はありません。
AIの勝率が30%(つまり、相手が70%)のようなときに勝負手を放ちます。ところが、AIはその局面を判断して勝率10%に下がったと冷酷な評価をします。勝負手は悪手であり、負けを早めるということです。
ところが、人間相手の戦いでは勝負手が功を奏する場合があります。解説の方が言われたように、対局者のほうも意表をつかれてビックリするのです。結果として、次の一手でいまの勝負手よりさらに悪手を打ったりします。勝負手を境にして、AIの勝率が大きく振れるようなことになるので、実は勝負手は成功したのです。
ビジネスの世界でも、勝負手を放つ場面があります。業績の先行きに不安がある会社が、意外な会社を大金を使って買収するようだと報道されています。
そこまでいかなくても、小売業の会社が飲食サービスに参入するとか、子ども向けの商品を取り扱っていたが老人向けに転換するとか、勝負手は限りがありません。
コロナ騒動で売上が減っている事業者を対象にした「事業再構築補助金」の公募がはじまっています。苦しい経営状況にある事業者に対して、新分野展開や業種・事業の転換を促す補助金です。通常枠の補助上限が6千万円と大きいので、注目を集めています。私のところでも、何件も相談があります。
事業再構築は、まさに「勝負手」です。たいていの場合は悪手であることを、覚悟しておいたほうがいいです。悪手が成功する場合がしばしばあることが、人の世のおもしろいことではあります。
しかし、本来は悪手なんだと理解して、ある種の準備や心構えをして放つ勝負手と、一か八かでダメなら終わりと考えて放つ勝負手では、やはり違いが出ます。よく考えましょう。