雑誌で見たのですが、昔懐かしいオーディオカセットテープの人気が再燃だそうです。
人気の理由は、アナログのカセットテープのほうが、デジタル音源よりも温かみがあり、優しく柔らかい印象があるそうです。これが音楽ジャンルによっては心地よいとのことで、多くの若者に受け入れられているということ。また、高齢者には、昔から馴染みがあって、目で見て動いていることがわかるカセットテープは、使いやすいそうです。
現在、日本での出荷数が年間約1000万巻ということですから、10億円近い市場規模となります。主には、Maxellが販売していますが、TDKやSony、ナガオカなどのブランドのものもあるようです。
ただ、現在発売されているカセットテープはノーマルポジションに限られています。
ノーマルポジションというのは、Type-Ⅰと表現される保磁力(Hc)が400Öe以下のテープです。保磁力は、大まかに言えば磁気記録の強さを表す単位です。このタイプのカセットテープは、50年以上前の1965年頃には既に発売されていました。
私が会社に入って、製造スタッフとして最初に担当したのがこのType-Ⅰに使用される磁性粉(ɤ-酸化鉄)の生産でした。入社2年目の社員に原料計画から製品まで任せるという少々乱暴なことがおこなわれたのは、当時、VHSテープが世に出てビデオテープ用磁性粉の生産が忙しくなっていたからです、また、オーディオテープの需要も、Type-ⅠからType-Ⅱへと中心が移っていました。
Type-Ⅱは、ハイポジション(あるいはクロムポジション)といわれるテープです。保磁力(Hc)は650Öeくらいに上がっています。当初、ヨーロッパで磁性粉に二酸化クロムを使ってつくられたのですが、クロムの毒性を嫌って、日本ではɤ-酸化鉄にコバルト被着した磁性粉が使われました。これが1975年頃のことです。
より良い音質を求めて、あるいはいい恰好したいから、多くの若者はType-Ⅱのテープを選択していました。このコバルトɤ-酸化鉄が、初期のビデオテープにも転用されたことから、需要が爆発して、会社ではてんやわんやの状況が毎日続いていました。
さらにType-Ⅲ(あるいはType-Ⅳ)に当たるメタルテープが誕生します。これは磁性粉に鉄メタルを使用するもので、保磁力(Hc)が1000Öeを超えます。
もっといい恰好したい若者は、メタルテープを買いたいのですが、値段が違いすぎました。薄っすらした記憶ですが、60分テープが2000円以上はしていました。まぁ、私の会社が出荷していたメタル粉は、ɤ-酸化鉄の50倍くらいの値段でしたから、これも当然です。
何だか、昔のことをいろいろ思い出します。たくさん書きたいこと(書き残したいこと)がありますし、今も不思議に思っていて、知りたいこと、訊きたいこともたくさんあります。
にわかにカセットテープが人気になったことで、磁気テープメディアについて、深く研究して文書に残してみようという若者が出てくるといいなぁと思います。