球磨川氾濫、治水の難しさ「避難しかない」

球磨川は「日本三大急流」の一つで、舟下りが多くの観光客を集めます。

 

球磨川は上流域に人吉盆地、中流域が川幅の狭い急流、下流に干潟を開発した八代市が拡がります。球磨川の特徴はやはり、中流域の急流にあります。ダイナミックな舟下りは、奇岩や巨岩が迫ってくる独特な景観もあって、多くの人の人気を集めます。また、アユの好漁場として知られ、ギンブナ・タナゴ、カワムツ・ウグイなどが生息しています。

球磨川のある熊本県南部は、集中豪雨がしばしば起こります。また、台風がよく通るコースでもあり、球磨川はしばしば氾濫しています。

 

人吉盆地は昔は湖でした。八代側で決壊が起きて、水が流出して乾いた盆地になりました。人吉盆地には球磨川と最大支流の川辺川が、人吉市市街の中心部より上流側で合流しています。

 

人吉盆地を流れ出した球磨川本流は、九州山地の狭小な谷を下り日本屈指の急流となります。川幅の狭いから急流なので、大量の水が流れ込むと、たちまち水位はとても高くなります。今回は、9メートルに達したという報道もありますから、津波クラスです。

また、この急流は大量の水を流す容量がないので、流入した水はバックウォーターとなって人吉盆地に戻り、球磨川の上流域にも、氾濫規模を大きく広げます。

 

川の氾濫を防ぐ方法として、ハード面では次の4つが考えられます。

1つ目に、川幅を広げることが考えられますが、人吉市を流れる球磨川の左右には市街が広がっています。中流は、九州山地の狭い隙間を流れる急流ですから、広げることができません。

2つ目に、川の水深を深くする方法もありますが、掘削して岩盤を剥き出しにしたら、アユもギンブナも生息できなくなります。

3つ目に、堤防を高くする方法もありますが、高い堤防は溢水しても破堤しても、被害がより大きくなります。また、強度を保った薄い堤防を築くことは技術的にも困難です。

 

そこで4つ目として、昭和40年頃から、川辺川ダムの建設が計画されていました。支流とはいえ大きな川辺川の上流にダムをつくれば、球磨川の流量を調整できるということでした。

しかし、五木の子守唄で有名な五木村が水没するということもあって、根強い反対運動があり着工できないまま時が過ぎました。最終的には、民主党政権のときに「東の八ッ場ダム。西の川辺川ダム」ということで中止になりました。

 

ただ、ダムがあったら氾濫しなかったとも思えません。

当時、最大に想定していた雨量は、2日間で440㎜、12時間で220㎜でした。これが80年に1度の豪雨です。ところが、今回の雨量は、1日で440㎜、1時間で60㎜などと報道されています。想定を超えた尋常じゃない雨の量だったようです。 

 

ハードに完全に頼ることはできませんから、命を守るのは「避難しかない」と言えます。

 


球磨川くだり ラフティング
球磨川くだり ラフティング

これだけ気候が激甚化してくると、ダムも含めて、いろいろな選択肢を検討するべきだと思います。実は、ダムに関しては必要性が増していると感じています。

 

集中豪雨の激しさが増しているので勘違いしますが、総雨量が増えているわけではありません。つまり集中豪雨の裏返しとして日照り・渇水も増えてきます。ダムは渇水期の水を確保する意味が強調されます。球磨川でも、渇水では舟下りができません。

 

さらに、電力供給の課題もあります。原発の再稼働を延期しているうち、旧型の石炭火力を廃止しようという動きがでています。自然エネルギーに頼るというなら、水力発電を強化することになります。太陽光や風力が当てにならないことは、はっきりしています。

 

「脱ダムから活ダムへ」と思っていましたが、ダムの新設も検討対象かも知れません。