6月は環境月間です。日曜日に、「アラル海消失」の記事を連載します。第3回目です。
世界4位の広さを誇るアラル海。60年前には瀬戸内海より多量の水を蓄えていた巨大な湖の現状とこれからがテーマです。今回は、アラル海を再生に向かわせる、国際的なプロジェクトについて考えてみましょう。
アラル海は、地図の赤丸のところです。カザフスタンとウズベキスタン両国の間にあります。
アラル海に流れ込む2つの大河のうちシルダリア川はキルギスから、ウズベキスタンを経由してカザフスタン国内を流れます。もう一つのアムダリア川はタジキスタンからウズベキスタンを経由してトリクメニスタンを流れ、再びウズベキスタンに入ります。
アラル海の再生は、中央アジア5か国の連帯なくしては達成できません。
干上がったアラル海からは、中央アジアの国々に向かって、塩を含んだ砂が年間1億トンも砂嵐となって降り注ぎます。この地域で降る雨の塩分濃度は、日本の10倍もあります。
この高い塩分は中央アジアに住む人の健康に、大きな影響を与えています。この5か国の合計の人口は約7000万人ですが、これまでに約500万人が呼吸器疾患、食道疾患、喉頭がん、失明などの被害を受けていると言われます。
アラル海を再生する事業が事実上はじまったのは、21世紀になったからでした。1991年のソ連崩壊からの10年は、中央アジアの政情は不安定で、社会も経済も混乱しており、アラル海の再生に手が回りませんでした。もちろん、現在でも各国の政情が完全に安定しているわけではなく、ちょとましになったくらいです。
2001年に世界銀行のプロジェクトが発足して、2005年にシルダリア川からの水が流れ込む小アラル海をせき止めるコクアラル・ダムが完成します。これによって、北部の小アラル海の水位は上がり、塩分濃度も下がってきました。20種類ほどの魚も戻ってきました。
ところが南部の大アラル海へ流入する水量が減ったことで、大アラル海の水位を一層下げることになりました。
一方の大アラル海に流れ込むアムダリア川の再生のためには、流域に多くの人口貯水湖が建設されました。しかし、建設技術の稚拙さもあって、今になっても予定通りの機能を発揮できていません。
これらのアラル海再生プロジェクトの失敗は、あらたな分断や紛争の機会にもなりました。その後、中央アジア5か国は少しずつまとまってきています。2018年に初めての5か国サミットが開催され、2019年に2回目も開かれました。アラル海の再生への取り組みには、強い追い風になりそうです。
現在の中央アジア5か国の連携がようやくはじまったところです。しかし、今でもロシアの影響を強く受けます。それに加えて、一帯一路政策によって中国が影響力を増しています。ソ連崩壊後から支援を続けるEU諸国も力をつけています。軍事的な均衡を意識するアメリカも、いろいろ働きかけを強めます。
日本からは、安倍首相が2015年10月23~27日に、この中央アジア5か国全てを訪問しました。当時、日本国内では、首相が独裁国家を巡ることに批判もありました。
今後の中央アジアの政情がどのように動くのかはわかりません。とにかく、アラル海の再生が成し遂げられるには、政治的・経済的な安定もまた不可欠です。