6月は環境月間です。日曜日に、「アラル海消失」の記事を連載します。第2回目です。
世界4位の広さを誇るアラル海。60年前には瀬戸内海より多量の水を蓄えていた巨大な湖の現状とこれからがテーマです。今回は、アラル海を干上がらせている、大規模灌漑について考えてみましょう。
地球は表面の7割が海に覆われており、水の惑星と言えます。しかし、地球上の水の多くは塩水で、真水は僅かに2.5%しかありません。しかも、真水の多くは氷河や氷床など氷(固体)で存在します。真水はとても貴重なのです。そして、水の需要で最もおおきいものが農業です。
アラル海のある中央アジア一帯は、乾燥気候で農地をつくるためには、灌漑をおこなうしかありません。このため、当時のソ連政府は、アラル海に流れ込む二つの大河、シルダリアとアムダリアの水を取水したのです。現在では、アムダリア川からはアラル海に水は多少流れ込みますが、シルダリア川からの流入はゼロです。
少し乱暴に書けば、この大規模な灌漑によって約8万㎢の新たな農地ができました。日本の農地面積が4.5万㎢ですから、その2倍に近い想像を絶する面積です。但し、その代わりにアラル海の湖面が6万㎢減って、塩の浮いた砂漠となったというわけです。
灌漑によってできた農地の主な農産物は、綿花と米でした。
綿花1㎏を生産するには10,000㎏の水が必要です。米1kgを生産するには4,000㎏の水を使います。綿花も米も水原単位の高い作物です。
中央アジアの農業生産拡大のためには、アラル海が干上がっても仕方なかったでしょうか。
アラル海が消失したことによるデメリットはたくさんあります。最も直接的なのは、アラル海での漁業です。
何しろ瀬戸内海より大きい湖ですが、1950年代には年間漁獲量が5万トンもありました。(ちなみに、瀬戸内海が15万トンくらいです。)キャビアでも有名なチョウザメやカレイなどの好漁場だったのです。大半が干上がり、残った湖も塩分濃度が高すぎて魚は住めません。アラル海の漁業は壊滅し、漁獲量はほぼゼロになりました。
さらに過剰な灌漑は、その目的だった農業にも影響します。もともと塩分濃度が高い土壌に潅水を続けたことで、農地には徐々に塩が浮くようになりました。干上がったアラル海を覆う塩も風に運ばれて退席します。せっかくつきった灌漑農地ですが、わずか40年ほどで農作物が収穫できなくなりました。
また、川をせき止めたために、周辺の生態系が崩れて、天敵のいなくなった昆虫が異常発生しました。これを逃れるために、しかたなく大量の殺虫剤を散布したことで、広範な農地が汚染されてしまいました。また、この汚染された土壌は。中央アジアの乾いた風に舞い上がって、広く遠くまで飛んでいきました。
こうして、アラル海もアラル盆地をはじめとした周辺地域も瀕死の状態となったわけです。