人には「欲」があります。仏教では五欲と言って、食欲・財欲・色欲・名誉欲・睡眠欲の五つにまとめています。
人の欲には限りないとは言いますが、どんなに食欲旺盛でも無限に食べたり飲んだりできるわけがありません。色欲も名誉欲も睡眠欲も同じです。実は財欲でも、服が欲しい、クルマが欲しい、家が欲しいとかでは限界があります。人の欲の中で唯一限りが無いのが「金(貨幣)」に対する欲です。
貨幣は商品やサービスの円滑な交換や流通のための媒介をするものです。
貨幣そのものには本来は価値がありません。具体的にモノやサービスと交換されて、ヒトの必要や願望を充たしたときに、はじめて価値を持ちます。ヒトが貨幣に持つ価値とは、抽象的なものに過ぎません。
ところが、ヒトには財欲とは別に貨幣欲というようなものがあります。モノやサービスを求めるのではなく、ただひたすらに貨幣(マネー)を貯めるという欲です。この貨幣欲はいくら貯めてもお腹一杯になりませんから、原理的に無限大の大きさを持ちます。
これが貨幣の厄介なところです。一例が、新型コロナウイルスの対策として、政府に対して直ちに大きな貨幣を広い範囲に配れと声高に言う人がでてきています。テレビなどで言っている人の多くは貨幣欲が無限大です。使い切れないマネーを貯め込んでいる人達です。本当に危機だと考えるなら、政府に対して金を出せと言わずに、自分と自分の仲間たちが貯め込んだマネーを放出するほうがよほど妥当です。
今回の新型コロナ禍でもよくわかったように、日本は世界で最も国民の力が強く、政府の力が弱い国です。「アベ独裁」と見当はずれの批判をしていた人が、リーダーシップを発揮しろと平気で言います。そもそも日本の首相には大した権限はありません。
政府に対して金を出せといいますが、政府にお金はないのです。日本は世界一お金持ちの国で、正味資産が3500兆円くらいあります。ところが政府と自治体を合わせた正味資産はその1%にも満たない30兆円ほどです。日本政府よりお金を持っていないのは先進国ではイタリアくらいです。もちろん、持っていない理由が違います。
では、日本のどこにお金があるかと言えば家計です。日本の正味資産3500兆円のうち、家計に2700兆円近くがあります。家計は金融資産が1900兆円、現預金だけでも1000兆円もあるのです。マスコミでお金持ちたちが言っているのは、これでも家計から政府がカネを借りて、家計に配れと言っているわけです。
このタイミングで日本政府が債務超過になるのを容認してよいのでしょうか? 新型コロナ禍が国を亡ぼすほどのものなのかを考えないといけないですし、これからやって来る新たな不測の事態への備えが無くてもいいのかも頭に残すべきでしょう。