電気事業法が改正される前、電力会社は電気以外の商品を販売することができませんでした。
私の勤めていた工場は中国電力の発電所の隣に位置していました。電気事業法が改正されたことで、この発電所で電力をつくった後で不要になって放出していた熱=低圧の蒸気(といっても、2MPa=20kgf/cm2 以上もある)をパイプラインで供給してもらうことになりました。日本で電力会社が電気以外のものを初めて販売した出来事だったと思います。
発電所のタービンは超臨界圧力で25MPaとかの高圧で使用されます。圧力を失った蒸気は、給水の加熱などに使われますが、余った分は大気中に放出されます。
一方で、工場で使われる蒸気の圧力は0.1MPaくらいです。私たちの工場では、A重油を燃料として3基合計で70t/hの水管ボイラーで蒸気を製造していました。
蒸気の使用量は、工場の稼働状況によって変わりますが、一定のベースになる消費があります。(ちなみに、私たちの工場は24時間連続操業です。)ベース消費分の蒸気を発電所からパイプラインで供給することを計画したわけです。
仮に、蒸気20t/hで単価を2千円/tとすれば40千円/h×8400h=3.4億円です。もちろん、ランニング費用がゼロではありませんが、捨てていたものが産む価値としては厖大です。。
もちろん、ボイラー燃料の消費が減る分だけ温室効果ガスの排出も減ります。
当時、工場の生産技術課長として、この案件を担当していました。規制緩和が新たな利益を産むことを身をもって体験できたわけです。
工事としては、延長2000mほどの配管を敷設するだけなのですが、いろいろと大変なことや、それまでにない新たな気づきがありました。なかなかできない経験だったので、とてもためになったと感謝しています。
その後、発電所からの熱供給はいろいろな場所でおこなわれていると聞いています。