治水対策のためにどんなに多額の公共工事をしても、全体に洪水を起こさないのは難しい。
だから、公共工事をするのが無駄だとか、止めろというわけではありません。いくら公共工事をしていっても、絶対に洪水の被害から免れるということはないのです。最後には、自分や関係者の生命、会社の信用を守ることに集中せざるを得ません。
治水対策が難しいのは、水の「高いところから低いところへと流れる」という性質を変えることができないからです。
水が土地に侵入してこないためには、土地よりも低いところに水があればいいわけです。
ところが日本の場合、土地よりも水のほうが上にある(あるいは、上になる)ところがたくさんあります。
そこで、洪水や浸水の被害を受けない方法は次の3つです。
1) 水の高さを下げる、2)土地の高さを上げる、3)水を閉じ込める です。
1)水の高さを下げるには、いくつかの方法があります。
大きなダムをつくって水をためて、川の水位を下げる方法があります。放水路をつくって水の流れを分けることもあります。川幅を広げれば水位が下がります。上流で故意に破堤をおこして水を抜くことも理屈上は可能です。川底を浚渫したり、中州を撤去したりしても水位は下げることができます。都心では地下の巨大な貯水施設を設置しています。
どの方法も実際におこなわれていますが、膨大な額の費用と長い時間がかかります。さらに、関係する多くの住民に犠牲を強いることになります。
2)土地の高さを上げるのは、狭い範囲であれば可能性があります。
都市全体はともかく、団地全体でも既に住民が生活しているところの高さを上げることは困難でしょう。しかし、浸水被害が酷くて、再発しそうな地域の住民が、集団で高台に転居する計画をつくるというのは、ときどきあることです。もちろん、これも膨大な費用がかかりますし、全員が納得するということは期待薄です。
また、どの程度の高さまで上げるかは難問です。北陸新幹線の車両基地が浸水しましたが、建設時に2mの高さで盛り土をしていたそうです。しかし、浸水深さが4.5mだったので、差し引き2.5m分が水没しました。5mの盛り土が現実的な方法だったかはわかりません。
3)水を閉じ込めるのが最後の手段です。
高い高い堤防(スーパー堤防)をつくって、川を閉じ込めるということです。ただし、高い堤防を壊れないような強度でつくるには、堤防の底面積が大きいことが条件です。川の周辺に大きな土地を確保して、堤防をつくります。つまり、土地を守るために広い土地を失うという矛盾が生じてしまいます。
結局のところ、絶対の信頼が寄せられる方法はありません。多額のコストと住民の直接的な犠牲を伴います。独裁国家であれば、一定程度は施工できるかもしれませんが、現代の日本では少数者の犠牲でも許容されることは難しいです。
「できることはすべてやる」というのは、「できないことはできない」ということでもあります。この場合、できるか、できないかは、技術や費用ではなく、国民や住民の考え方によって決まりことが多いでしょう。まだまだ、長い時間がかかります。