朝日新聞の論座に「中国に追い抜かれた日本の知財裁判」という記事が記載されていました。
「中国に追い抜かれた日本の知財裁判」という書き方は、よくできたフェイク記事です。確かに嘘は書いていないのですが、読み手が全く違う印象を持つような記事です。書き手は元特許庁長官・知財評論家という肩書の方ですが、流石と感心しています。(嫌味です)
この記事で述べられているのは次のようなことです。
1.中国の知財訴訟件数が日本の93倍。
2.中国政府が知財訴訟を武器にしている。
3.大量の訴訟をこなす裁判制度がある。
4.損害賠償額がすぐに決まって通知される。
5.裁判所のIT化が進んでいる。
6.中国では知財が簡単にお金になる。
書いてあることは全て事実なのですが、これを以て「中国が日本の知財裁判を抜いた」というのは読者に大いなる誤解を与えます。
確かに、中国では知財訴訟がどんどん提起されて、どんどん判決がでます。その前提は、知財(特許)がどんどん認められるからなのですが、その認められる知財の質が酷いのです。本来、特許とは自然科学の法則に基づいた独創的な発明でなければ認められるはずがないのです。しかし、中国では大前提である自然科学の法則を無視した特許でも認められます。
知財裁判が専門性を必要とするという記述は一部はそうですが、それ以前に教養としての科学を知る人(裁判関係者)が少ないという基本的な問題を解決しなければなりません。
インターネットを利用した迅速な決定も結構ですが、自然の自然科学の常識に外れた判断が横行していることに注意です。いくら共産党一党独裁であっても、枝から離れたリンゴは地面に落ちなければなりません。
中国政府が知財、実際は知財裁判を使って世界を支配しようとしていることは記事に書いてある通りです。どんなに無茶な命令でも、迅速な知財裁判で決められてしまえば困るのは世界の企業者です。当然ですが、中国政府の力は強大です。しかも、この記事にあるように損害賠償金額は大きければ大きいほど評価されるのですから、大変です。現時点では、中国の知財裁判に対する正しい姿勢は、逃亡あるいは丁寧な無視しかありえません。
一方で、日本の知財専門家が中国を大事にするのは何故でしょうか。実は、国際的な知財の枠組みというか信頼性が損なわれているために、知財専門家の経済価値は下がっています。知財の世界で、科学的な常識に政治的な無理が勝ってしまうので、知的ではなくなったのです。
それでも専門家も商売です。生きていくためには圧倒的なボリュームがある中国の仕事をせざる得ないのです。国際特許という仕事で、中国特許の経済量が最も多いのですから仕方ありません。なかなか難しいことなのですが、この状態は、どこかで歯止めを掛けなければならない問題ではあります。