鼠穴の経済学と社会学

空前の大型連休(10連休)が始まりました。古典落語を聞いています。

 

「鼠穴」という演目があります。Wikipediaによると、元は上方落語だったそうです。近年では7代目立川談志が得意とし、他にも10代目柳家小三治や上方の4代目桂福團治等が演じる。とあります。個人的には先代の三遊亭圓楽の「鼠穴」がよかったような気がします。

 

銭さし
銭さし

あらすじは、父親から譲り受けた田地田畑を遊びで使い切った竹次郎は、江戸に出て大店の主人に納まっている兄のところを訪ねる。

竹次郎は兄に雇ってくれと頼むが、兄は「お前商売をやってみろ。元手は出してやる」と言われて追い立てられる。

 

竹次郎は兄にもらった袋を開けると元手と言われて渡されていたのは、たったの3文(今の価値なら100円ほど)だった。

竹次郎はこれをみて一念発起。この3文で”さんだらぼっち”を1枚買います。さんだらぼっちというのは、桟俵(さんだわら)、米俵の両端に当てる円いわらの蓋のことです。

竹次郎はこれをほどいて、”銭さし”をよってこしらえます。銭さしというのは、1文銭の穴に通して1本100文(約3000円)のまとまりにするものです。百文銭というのもあるのですが、庶民はこの銭さしをよく使っていました。

 

竹次郎は銭さしを売り歩き、3文が6文、6文が12文と小金を貯めて、こんどは俵ごと1枚買います。この俵をほどいて、草鞋を編み、残りをやっぱり銭さしにして売り歩きます。

・・・その後もいろいろあるのですが、お金を貯めて、妻をもらい、表通りに蔵のある店を出します。ついに、兄に元手の3文を返しに行くと・・・・。

以下、落語はネタバレになるので止めときます。

 

ちょっと面白いのは、銭100文さしには、実は96枚の1文銭しか通っていないのです。4文は銭をまとめる手数料です。なかなか合理的なシステムです。

 

演目の「鼠穴」というのは、鼠が出入りするのに土蔵に開けた穴のことです。火事は江戸の華と言われますが、土蔵の鼠穴からでも中に火が入ることがあります。兄のところを訪ねた竹次郎は、自分の店の土蔵の鼠穴のことを心配していました。

蟻の一穴もそうですが、鼠穴もほんの小さなほころびから全部を失うようなことがあるという戒めですね。

 

ところが、菜根譚には「奸を鋤き、倖を杜つには、他の一条の去路を放つを要す。若し之れをして一も容るる所無からむるは、譬えば鼠穴を塞ぐが者の如し。一切の去路、都)て塞ぎ尽くせば、則ち一切の好物は倶に咬み破られん。」とあります。

こちらの鼠穴は相手を完全に追い込まないように開けておく方がよいと諭しています。