PRESIDENT onlineに『世界遺産に「殺された」富岡製糸場の教訓』という記事がありました。アレックス・カー(東洋文化)と清野由美さんの共著からの編集とのこと。
要旨は、世界遺産に認定されて一気に観光客が増えたものの、すぐ減ってしまった。残ったのは観光公害の残滓と官民の経済負担・・ということです。
参考☞ 2015/09/25 世界遺産:石見銀山 今の価値なら年間4兆円
「明治日本の産業革命遺産」は2015年にユネスコに登録されたものです。
日本は、幕末から僅か半世紀の間に製鉄・鉄鋼、造船、石炭産業において急速な産業化を達成し、非西欧地域で最初の産業国家としての地位を確立しました。このことは、世界史的に極めて意義のある特筆すべき類稀な事象であり、この歴史的過程を時間軸に沿って示しているのが、「明治日本の産業革命遺産」です。<解説文をコピー>
この遺産群は北は岩手県釜石市から南は鹿児島市まで8県11市に23の資産があります。
このうち、山口県萩市にある5つの資産が時代的に一番古いのです。
萩市から日本というか東洋の近代化の物語を追う旅をはじめて、産業革命遺産を歩いてみるというのは面白いと思います。
最も古いのが安政3年(1856年)につくられた、萩反射炉です。幕末期に、日本に進出しようとする西欧列強に対抗するための大砲鋳造を目的とした施設です。
以下、時代順に旅するなら、萩⇒鹿児島⇒静岡(韮崎)⇒岩手(釜石)⇒佐賀⇒長崎⇒三池⇒八幡となり、最も新しいのが明治43年(1910年)の遠賀川水源地ポンプ室です。八幡製鐵所が使用する大量の水を送るための施設です。
「明治日本の産業革命遺産」は、端島炭鉱(軍艦島)が少し注目されたくらいで、観光資源にはあまりなっていないようです。萩市に世界遺産を目当てにして、大勢の観光客が押し寄せたというわけでもありません。富岡製糸場のようなことにはならなかったのは幸いです。
むしろ、世界遺産への登録の経緯やその後をみると韓国からの因縁に翻弄されているというのが悲しい現実です。明治日本の産業革命は、非西欧地域とりわけ東アジアの産業のスタート地点でもあります。現代の韓国・中国の隆盛した産業の出発点でもあるのです。
「明治日本の産業革命遺産」はイコモスが登録を勧告すると、韓国(当時は朴槿恵政権)から強い反対が巻き起こります。軍艦島や三井炭鉱などに朝鮮人労働者が強制徴用されたという因縁です。強制徴用というのは、仮にあったとしても太平洋戦争末期のことですから、幕末から明治の産業革命遺産の価値とは関係ないのですが、韓国の人には理解されないのです。
結局、日本政府(安倍首相-岸田外相)は、世界遺産に「1940年代に一部の施設で朝鮮人労働者が過酷な労働で犠牲になったことを忘れない」という情報を記すという妥協をして、登録にこぎつけました。先に書いたように、萩市の資産は時代が遡るので朝鮮人労働者問題は無いのですが、この遺産群全体が注目されない理由になっています。
明治維新の開国とは、ある意味では日本(徳川政権)の西欧列強に対する敗戦です。
日本は独立国の体裁は維持しましたが、列強の軍事力の下で不平等条約を結ばされ、関税自主権を持たず領事裁判権を握られるなど属国扱いされました。
明治日本は、産業革命を果たし、日露戦争の勝利を得ます。西欧列強との間に平等条約を締結できたのは、明治が終わろうとする明治44年(1911年)のことです。