1991年にマイケル・ポーターが提唱した「ポーター仮説」というものです。
正確には、『適切に設計された環境規制は、費用節減・品質向上につながる技術革新を促進
させ、結果としていち早く環境規制を導入した国の企業は生産性が向上し、国際市場における競争優位性を獲得できる』というものです。まぁ、そうだろうな!って思います。
例えば、1970年代にアメリカで自動車排ガスに厳しい規制がかける動きが出てきました。日本の自動車メーカーと燃料メーカーは、これにいち早く対応しました。
ところが、当のアメリカでは自動車メーカーの反発で法律制定が先延ばしになり、更に規制も緩和されました。規制の実行は1983年になりました。
ヨーロッパでは健康被害との因果関係が不明だという理由で規制はさらに遅れて、EC規制は1989年にようやく成立して施行は1993年でした。
環境規制によって、強制的に技術開発や商品開発の需要が創出されたわけです。この新しい需要に対応した会社が発展していきます。現在の日米欧の自動車メーカーの生産性や品質を比較したときに、ポーター仮説は成立しそうに思えます。
ある会社の生産性が、そのときの規制を前提してA点にあったとします。また、その規制を受けている状況で生産性向上の努力をすればA'点まで高めることが可能とします。
何らかの規制が強化されることによって、生産性がB点まで下がります。そのときに生産性向上の努力を積み重ねるとB’点まで改善することが可能です。
しかし、B’点はA点と大して変らないとすれば、規制強化によって企業努力の成果は消されてしまうことになります。
つまりポーター仮説は成り立ちません。
しかし、規制の強化は企業に新たなイノベーションの機会を与えます。
ときに規制の強化は企業の存続をも脅かしますから、これに打ち勝つことが必要です。そこで、プロセスイノベーション(生産システムのイノベーション)やプロダクトイノベーション(製品やサービスのイノベーション)が起こります。B’点から、C点に不連続にジャンプするということです。
先ほどの自動車の排ガス規制を例にとれば、欧米メーカーが達成が不可能として逃避した基準を1970年代のうちにホンダがCVCCエンジンという革新的な技術で最初にクリアします。その後、ホンダはLEVという技術で更に進化し、三菱やマツダが革新的なエンジンを続々と発表します。スバルがCVT方式の量産車を発売し、そして1997年にトヨタがハイブリッド車プリウスを発表することになります。
これらのイノベーションでは、強い環境規制への適応が生産性の改善だけに止まらず。品質の改良や顧客満足度の向上などに結びつくことが多くあります。また、仮に環境規制が有害物質の排出規制の強化であっても、もたらされたイノベーションが省資源や省エネルギーに貢献するのも一般的です。
問題は、その規制が”適切に設計された”ものであるかどうかです。これは、実に難しい課題ですから、ポーター仮説の評価は今でも分かれています。