賃金とは、名称の如何を問わず、労働の対償として使用者が労働者に支払うすべてのもの。
労働基準法11条です。「労働の対償」と「使用者が労働者に支払う」の2つが要件です。退職金も、この2つの要件を満たすので賃金(後払いの賃金)です。使用者の事情だけで支給の条件を変えたり、不支給にすることはできません。
<事例:東京高裁 平成15年11月>
小田急電鉄の従業員であるXは、他社の電車内における痴漢行為の再犯により、懲役4月執行猶予3年の有罪判決を受けた。
小田急電鉄は痴漢撲滅キャンペーンを展開している鉄道会社の職員としてあるまじき行為であるとして、Xを就業規則の懲戒規定に基づき懲戒解雇した。
さらに、懲戒解雇された者には退職金を原則として支給しないとする就業規則の規定を根拠に、退職金を支払わなかった。
住宅ローンが2000万以上残っていたXは、退職金は労基法上の賃金であり、全額払いの原則が適用されるべきであるとして、その全額の支払いを求めて提訴した。
皆さんでしたら、どのように判断されるでしょうか?痴漢行為を繰り返して、執行猶予付きとはいえ懲役刑になるような鉄道職員に退職金なんか払う必要がないという人が大半かも知れません。
<東京高裁判決の要旨>
退職金は7割を不支給として、3割を支給する。
退職金は後払い賃金という要素が強いので、懲戒解雇された者すべてに一律に退職金を支給しないというのはいけない。
退職金を不支給とするには、会社の名誉信用を著しく害し、会社に無視しえないような現実的損害を生じさせるなど、不信行為があることが必要で、その程度に応じて判断する。
(例えば、業務上横領をして会社に退職金相当額を超える直接的損害を与えたような場合であれば、不支給とするのは当然です。)
本件の場合、会社の名誉信用を著しく害する不信行為があったことは確かですが、その強度が退職金全額にまでは相当しないという裁判所の判断です。
また、文科省事務次官が辞任したので、退職金なんか支払うべきではないとワイドショーで叫ぶ人が出そうです。経営者さんが誤解しないように書き置きです。
退職金も労働の対償として支払われる賃金ですから、使用者が勝手に減額など不利益変更をおこなうことはできません。