中国と欧州でEV(電気自動車)への大転換が進むという報道ですが、現実は遠いでしょう。
電気自動車は、今後一定のシェアを獲得していくことは確実です。
日本で広く普及したハイブリッド車(HV、PHV)を含めて、モーター駆動のクルマが増えていくことは間違いありません。
世界的に増えていくと考えられる大きな要因は、都市における大気汚染を抑止するということと、エンジン車では日本メーカーの進んだ技術に対抗できない国(特に中国ですが、欧州諸国も似た状況です。)が闘うステージを変えようという戦略によるものです。
それでは、一部報道にあるように、ガソリン車やディーゼル車が廃止になって、世界の全てのクルマがEVになるかというと、それは違うと思います。
ガソリン車やディーゼル車などエンジンを積んでいるクルマは、石油由来の燃料を直接利用して動きます。ガソリンや軽油などの燃料は、液体ですので貯蔵できます。単位重量当たりのエネルギー量は蓄電池より二桁大きいのですが、それ自体に触れても危険はありません。
一方で電気自動車は燃料の化学エネルギーを機械エネルギーを介して電気エネルギーに変換して使うことになります。しかも電気エネルギーを送電して貯蔵するという、やっかいな問題も抱えます。変換も送電も貯蔵も、それぞれの段階でロスが生じます。
乗用車型の電気自動車1台(テスラとかリーフ)が1年間に使用する電力は1~2MWhです。仮に、日本で走っているクルマ(約6000万台)を全て電気自動車にするならば、必要な電力は約100TWhになります。
現在の日本の9電力会社の合計電力量が1,000TWhです。また、福島原発がフル稼働した場合で30TWhです。つまり、現在の発電量を10%増しにしなければならないわけです。
日本では原子力発電所の新設は今後あり得ません。原発に転換が予想されていたので、火力発電所の半数近くは耐用年数を超えています。石油や石炭・天然ガスなど化石燃料を燃やす火力発電所をどんどん作るのは、地球温暖化と安全保障の二つの観点から極めてリスクが高いと言えます。
今後の日本のエネルギー戦略の基本は、「脱原発」であり「脱電力」になります。国として火力と原子力発電を合計した総発電量を削減していくことが求められます。その総発電量の削減を超える省エネ分をEVに使うというのが現実的です。
全てのクルマをEVにして、輸入した液体燃料をわざわざ発電所で電力に変えて使うということは非合理ですね。また、日本のこの状況は時期を遅らせて、世界の制約条件になります。
また、再生エネルギーの比率を上げればカバーできるという人がいますが、ちょっと現実科学を知らない感じがしますね。普通に考えれば(政治的な意図に左右されなければ)、今後もエンジン車とPHV、EV、FCVが、用途や運転者の好みなどによって個々に自由選択されて共存することになると思いますし、そんな世界が心地よいです。