青砥左衛門尉藤綱の故事

川に落とした十銭をさがさせるために五十銭を使ったというお話です。

 

青砥左衛門尉藤綱の故事
青砥左衛門尉藤綱の故事

太平記にあるお話です。

 

北条時頼に仕えた鎌倉時代の実直な武士に青砥左衛門尉藤綱(あおとさえもんのじょうふじつな)というものがありました。

 

あるとき、藤綱が夜になってから仕事に出掛けることになりました。途中の河を渡るときに燧袋(ひぶくろ:火打ち道具を入れる袋)に入れていた銭十文を落としてしまった。だいたい、今のお金で2000円くらいです。

藤綱は町屋に人を走らせて、銭五十文でたいまつを買ってきて、必死に探した後に、河のなかから銭十文を見つけたそうです。

 

この話を聞いた人は、「何と愚かなことだ。銭十文を探すのに銭五十文を使うとは、小利大損というようなものだ。」と馬鹿にしました。まぁ、当然ですね。

 

しかし、藤綱は「いやいや、皆さんのほうが愚かなのです。銭十文を河の底に沈めたままにすれば、それは永久に失われる。銭五十文は商人の家に入って失われることはない。私の損は商人の利であり、天下の利に他ならない。」と諭したものですから、皆は感心したそうです。

 

この故事は、有名です。井原西鶴も「武家義理物語」でこの故事をひいていますし、落語の題材にもなっています。しかし、評価はそれぞれでしょうね。

 

銭十文を河に無くしても、鋳造した原価分しか社会的損失は無いなんて、身もふたもないことを言う人もいます。しかし、自分の欲ではなく、天下のために銭十文を惜しんだ藤綱の心意気は感じることは大事です。