うさぎ島と毒ガスと金とトランプ

私の故郷は大久野島に近いので子供のころから何度か行ったことがあります。

 

大久野島は広島県竹原市忠海町の沖合にある小さな島です。よくある比喩では、東京ドーム15個分くらいです。

今は、「うさぎ島」として世界的に有名になっています。2015年のデータで観光客数が25万4000人、観光消費額7億8000万円です。特筆すべきは、観光客の約7%にあたる1万7200人が外国人で、更に国別トップがアメリカの4470人です。ドイツ・イギリスなどヨーロッパから訪問する人が増えています。

 

大久野島は全島が国有地で、環境省が運営する「休暇村」になっています。休暇村で働く20人余りが住んでいますが、本来は無人島です。たまたま飼われていたアナウサギが野生化して、天敵のいない環境で繁殖していったために増えていったそうです。

 

大久野島が国有地なのは、旧日本軍の毒ガスを作っていたからです。本土(忠海)から目と鼻の先にある島ですが、終戦までの日本地図には掲載されていない「地図にない島」でした。毒ガスの製造は国内外に秘密にされていたのです。

終戦後はアメリカ軍が接収していましたが、昭和30年に国有化され、昭和38年に休暇村として開場しています。但し、開場後も何年かは残置されていた毒ガスが発見されたり、被害の報告が入ったりしました。

島には毒ガス資料館がありますし、当時の施設跡や防空壕跡も残っています。

 

マレーシアでVXガスを使った北朝鮮による国家テロが発生して、毒ガスが注目されています。毒ガスは安価に大量に簡単に生産することができるので、恐ろしい武器です。

日本では、オウム真理教による、2度のサリンを使った世界最初の毒ガステロ事件が起きています。

 

毒ガスの歴史は1914年にフランス軍がドイツ軍に対して使用したことにはじまる(約100年前のこと)そうです。その後、ドイツ・イギリス、アメリカで開発が進んでいきました。第1次大戦で使用された毒ガスはまだそれほど強力ではありませんでしたが、それでも毒ガスで亡くなった人は最終的には10万人を超えたそうです。

 

その後、ドイツでサリンなどの神経ガスが開発され、毒ガス兵器の脅威が高まります。ドイツ軍は第二次大戦の終了時には数十万tの毒ガス(まさに地球上の全ての人類を何度も殺せる)を貯蔵しており、日本軍も大久野島をはじめとする貯蔵施設に膨大な量(正確にはわからない)を保有していたようです。

 

しかし、第二次大戦では結果的に毒ガス兵器を広く使われることはありませんでした。日本軍でも作戦は立案されたようですが、実戦での使用はされませんでした。当時、最も技術が進んでいたドイツ軍でも、ヒトラーは毒ガス兵器の使用を許可しませんでした。(局地的な使用はあったとしても全面使用は許さなかった。)

毒ガス兵器の使用を命令しなかった理由には諸説あるようですが、やはり最後の一線を超えるということはできなかったようです。

 

第二次大戦後に一線を超えることができたのは、アメリカでした。毒ガス以上に非人道的な武器である核兵器を使用した唯一の国です。そして、朝鮮戦争(窒息剤)、ベトナム戦争(枯葉剤)で毒ガス兵器を使用しました。

アメリカは自らが毒ガス兵器を使用したという負い目があります。特にベトナム戦争の枯葉剤の後遺症はトラウマになっています。世界で、毒ガス兵器の使用に最も神経質な国です。

 

ブッシュ大統領は、イラクのフセイン政権が毒ガスや生物兵器などの大量破壊兵器を保有することを理由にして戦争を開始しました。

オバマ大統領は、シリア内戦でアサド政権が毒ガス兵器(と言っても、第一次大戦前に使用されていた塩素ガスですが)の使用に対して、軍事攻撃の手前まで行きました。

 

トランプ大統領の北朝鮮への強硬姿勢という報道がされています。毒ガス兵器に対するアメリカの反応は、日本人が思うより強烈なのではないかと思います。

これが、良い方向に向かうのかどうか、地理的に近いだけに心配です。

 

余談ですが、アメリカも核兵器(原爆)の使用や焼夷弾による都市空襲など、非戦闘員への残酷な戦術は本来は許されませんが、勝てば官軍です。