痛みは喜びの2倍~損失回避バイアス

ゲームをしましょう。私がコインを投げて表が出たら、あなたに1万円あげます。裏が出たら、あなたは私に5000円ください。さぁ、やりますか?

 

冷静に考えれば、このゲームはやったほうが得です。プラス1万円とマイナス5千円が同じ確率でおこるのですから、期待値はプラスです。

しかし、このゲームに参加しようとする人は少ないのです。利益を得る喜びと、損失を被る痛みでは、痛みが2倍(以上)の大きさになるのです。

 

仮にあなたが1000万円の余った(当面、使う予定がない)お金を持っているとします。私にそのお金を預けてくだされば、10年後にサイコロを振って、1から5までの目が出たら2000万円にして返します。しかし、6の目が出たら1円もお返ししません。

これだとどうでしょうか?

 

株式投資などはこんな感じです。定期預金でもほぼゼロ金利の時代ですが、株式投資をプロに頼めば80%くらいの確率で儲かります。しかし、損をすることも稀であっても確かにあるのです。そこで、多くの人は、1000万円をそのまま預金(タンス預金)しておいて、10年後も1000万円のままです。

 

人は損失を回避しようとします。損失は大きな心の傷を残します。理屈ではなく、損失は強く心に残ります。また、会社でも家族でも多くの人から非難もされます。

会社でも儲ける人を賞賛する程度より、損失の原因をつくった人を非難したり、ときには懲戒したりする程度のほうが大きいものです。

 

この損失回避バイアスを巧みに使って成功したのが、ライザップが採用した「30日間全額返金保証」の制度です。損失をしないのだという意識があるので、高価なスポーツジムのトレーニングを購入することができたわけです。

 

また、分冊百科ビジネスも、損失回避バイアスを利用しています。

毎週(毎月)届く雑誌の付録(雑誌が付録かな?)を数十冊分集めると、クラッシクカーや戦闘機、鉄道模型やお城のジオラマが完成します。もちろん1度でも買い忘れると未完成に終わるので、人はその損失に耐えられません。意外なほど高い完走率の背景がこれです。

 

2万円分購入した後で、総額10万円で完成する模型の価値が(自分にとって)5万円分だと気付いたなら残り8万円を放棄するのは合理的な判断です。しかし、既に使ってしまった2万円の損失の重みが勝ちますから、止めることはできません。

 

豊洲市場の問題なんかも同じで、既に使った6000億円を損失とすることができません。合理的な判断は、過去の損失(サンクコスト)は忘れて、現時点で現場現実現状に合わせた最適な方法を取ることです。しかし、都民から大きな批判を受けるでしょう。

 

損失回避バイアスは人間に共通の本能的な感情で、なかなか克服できません。

そうは言っても、経営判断を降すような層の方は、自分の感情を意して正常な感情に保つように気に掛けることが重要です。