山口県の水素生産量は日本全体の10%強を占めています。
山口県は日本有数の水素生産量を誇っていて「水素先進県」を謳っています。
これらの水素は、わざわざ作っているのではありません。最も多いのは、苛性ソーダを製造するときの副生として発生する水素です。
苛性ソーダ(NaOH)は食塩水(NaCl+H2O)を電解してつくりますので、塩素(Cl2)と水素(H2)が副生します。
2NaCl+2H2O⇒Cl2+H2+2NaOH
これ以外にも、製油所やアンモニア製造の過程で水素が発生します。基礎素材産業が集積している山口県では水素発生量が非常に多いわけです。
こんな背景で、あなたは水素社会が実現すると思いますか?と質問されました。
私の率直な返事は、「期待はしていますが、限界があるでしょう」です。
そう応える理由は、いくつかあるのですが・・
私の働いていた工場では、酸化鉄の還元に大量の水素を使用していました。
長年取り扱った経験からも、水素という物質は、実にやっかいなものです。
何しろ、あらゆる元素の中で最も軽い物質です。つまり、同じ重さでは最も大きな体積になります。貯蔵するのも輸送するのも大変です。
工場では液化水素を購入していましたが、水素を液化するにはマイナス253℃まで冷やさないといけません。これには大きなエネルギーを使うことになりますが、こうでもしないと運べません。
トヨタ自動車の水素自動車ミライの場合は、水素を700気圧まで圧縮してタンクに入れます。
700気圧という圧力が持つエネルギーは恐ろしい大きさです。
そこまでしても水素のエネルギー密度は、石油系燃料と比較すると1/3くらいです。ミライは理論上最大620km走行できると言われますが、水素タンクの大きさは121ℓもあります。
また、水素の小さな分子はたいていの物質のなかに入り込んで、拡散していきます。鋼材は経年で徐々に劣化してきます。唐突に破壊に至ることもあります。
さらに、水素は空気中で広い濃度範囲(4~75%)で燃え、点火エネルギーは極めて小さくて済みます。ガソリンの点火エネルギーの100分の1くらいですから、ちょっとした静電気で簡単に点火します。
工場では、従業員や関係者に対して、専門的な教育を徹底しておこなっていました。もちろん重大事故は起こしていませんが、それでも何件かのインシデントは経験しました。
水素は一般に広く普及するには、ユニークすぎる物質のように思えます。
何らかの画期的なブレークスルーが必要だと考えています。