個人事業の建設業は息子を支配人登記する

相続は「包括承継」ですが、被相続人の「一身に専属したもの」は相続財産に入りません。

 

「包括承継」とは、「被相続人の財産に属した一切の権利義務を承継する」という意味。

 

プラスの財産である、所有していた物、持っていた権利(例えば債権、特許権、株式など)の一切の権利が承継されます。マイナスの財産である、負っていた義務(例えば、お金を返す義務など)も一切が承継されます。

 

プラスは承継するけど、マイナスはいらないということはできません。しかし、プラスもマイナスも両方ともいらないということはできます。

これが、相続放棄ですね。

 

この「包括承継」の例外が、「契約」と「一身専属」です。

「契約」というのは、例えばスポーツクラブの会員権とかリゾート施設の利用権などで、契約書で権利はその人限りで相続されないと書かれているような場合です。

 

 

「一身専属」というのは、「個人の人格・身分と密接なかかわりをもつために、その移転や他人による行使・履行を認めるべきではないもの」をいいます。

その人だからこそ認められた特別な権利とか、その人だからこそ負担しなければならなかった特別な義務です。よくあるのが、生活保護の受給権などです。

相続人にその権利と義務が移動することがありません。

 

この一身専属の一つに、建設業の「経営業務の管理責任者」の権利義務があります。

個人事業として建設業許可を取得して建設業を営んでいるケースを考えます。原則として建設業では、一件の契約金額が500万円以上(建築一式工事の場合は1500万円以上)の建設をおこなうには、建設業許可が必要です。

 

この許可の要件として、同じ種類の建設業で経営業務について5年以上の経験があるものを管理責任者とする必要があります。一般に、経営業務の経験とは、個人事業では経営者(事業主)であり、法人では役員(取締役)であることをいいます。

 

さて、父親が事業主であり、管理責任者として建設業許可を得ている個人事業の建設業で、息子が№2として手伝っているとします。父親のあとを息子がつぐことも、関係者が合意している場合です。

 

不幸にして、父親が他界したとします。

父親の管理責任者としての権利は、一身専属のものであって相続できません。息子が事業を承継しようとしても管理責任者が不在ですと建設業許可を認められないことになります。

 

これを回避する方法としては、予め(5年以上の期間が必要)、息子を支配人として登記しておくことがあります。そうすれば、父親の他界によって個人事業は廃業となり、新たに息子が建設業を開業した場合、それと同時に建設業許可の取得が可能です。

 

近年では500万円以下の軽微な工事であっても、建設業許可を持たない業者を排除する動きがあります。特に大手ゼネコンなどの現場では、この傾向が顕著です。

親父さんが元気なうちに、しっかりと準備をしておきたいところです。