意思決定の誤りについて、統計学で第一種の過誤・第二種の過誤という用語があります。
「する」べきだったのに、「しない」と判断するのが、第一種の過誤です。
「しない」と判断すべきなのに「する」ことになるのが、第ニ種の過誤です。
厳しい審査を何段階も通って、はじめて実施を決定するような仕組みになっていれば、第2種の過誤が起こる可能性は小さくなります。しかし、第1種の過誤が起こる可能性は、逆に大きくなります。一般的に、両者はトレードオフの関係にあります。
豊洲新市場の地下に謎の空間を建設することは、「しない」と判断すべきでしたが「する」ことになったので、第ニ種の過誤です。技術委員会などの外部機関や都庁の中央市場という部局内の審査の仕組みがきちんとしていたら起こらなかったことです。
何故、こういう事態になったかを推理してみると、担当した現場の実感として、それまでの過程で第一種の過誤が多く発生していたのではないか?と思います。
豊洲新市場については、発端からの経緯がいろいろ報道されています。知事や副知事など都庁の最上層部が直接関与して判断する場面がたくさんありました。現場の判断では「する」べきことが「しない」と結論されることも多かったようです。
結果として、スケジュールが遅れて、現場にプレッシャーがかかったのかも知れません。
第一種の過誤も第二種の過誤も、組織に損失を与えると言う意味では同じです。
しかし、100億円投資した結果として利益がゼロだったという場合、意思決定に第二種の過誤があったことは明らかです。当然、意思決定した人には厳しい御沙汰があります。
100億円投資すれば200億円の利益が出ていたので、「する」べきだったことを「しない」と判断した第一種の過誤は、同じ100億円の損失ですが、責任を問うことは困難です。
組織による多段階の検討や審査会での諮問などをきちんとやりすぎると、第一種の過誤がどんどん増えることになります。失敗できないプロジェクトの場合、「やらない」という意思決定のほうが意思決定者には魅力的です。
そこで、よく言われるのが「現場への権限の委譲」です。現場のことは、現状と現実をよく知っている現場に、一定の権限を委譲して任せるほうがいいということです。地方のことは地方に任せるとか、現地法人のことは現地に任せるというやり方です。
これは、現場で働く人の意欲を高めて、組織のパフォーマンスが上がる可能性が大いにあります。しかし、第二種の過誤が増えることにもなります。
したがって、重要なのは、上層部が責任は委譲せず、権限だけを委譲したという明確な意思を示しておくことです。そうであれば、現場の意思決定が上層部に伝わらないということは避けられたのだろうと思いますし、第二種の過誤の歯止めになったと思います。
意思決定には反動がつきものです。”羹に懲りて鱠を吹く”ということは、よくあります。
本質的な課題ですが、発展する組織はこれを克服しなければなりません。