日本永代蔵より(30)・・・智恵を量る八十八の升掻

日曜連載は、井原西鶴の「日本永代蔵:現代版アレンジ」です。最終回~第三十回。

 

”今の都に隠れなき三夫婦を祝ふ” (首都で有名な親子孫三代の夫婦が揃ったことを祝う)

 

社会は広いことに、今更ながら気づかされます。

バブル崩壊以降の長期不況に陥って、日本中の人が苦しみはじめてから25年が経ちました。そんな不景気のなかでも、無一文から商売を初めて、立派に成長をしている人もたくさんいます。逆に、思い起こせばバブルの好景気の時にもホームレスの人はおりました。

 

つらつらと、いろいろな会社や家庭をよくみると、それぞれに営業資産や家財道具を揃えてきていて、バブルの頃と比べて、不景気とは言え生活は豊かになっています。破産する会社も多いのですが、起業する会社も多いのです。

東京でも大阪でも、一等地に空き地が出ると、奪い合いになって新しいビルが建ちます。交通の便利がよい住宅地には、開発するとすぐに瀟洒な住宅が建ちます。

子どもの数も増えてきており、ブランド物の制服を誂えるような学校が人気になっています。休暇の日数も増えていて、夏にはリゾートへ出掛けたりする家族も目につきます。

 

もっとも、亭主が非正規雇用や中小零細企業勤めで、給料が少ないという相対的貧困家庭もあります。それでも、主婦の気働きで4人・5人家族が幸せに暮らしている家庭もたくさんあります。収入が多いから貯蓄が多いわけでもなく、収入が少ないから暮らしぶりが貧しいわけでもありません。

家庭のあり方はさまざまに変わります。夫婦共働きで稼いでも、支出が嵩んで暮らしが厳しい家庭もあります。一方で、主人ひとりが働いているのに、うまくやっていける頭の良いやりくりをする家庭もあります。

 

もともと全ての人間には、目があり鼻があり、手足があって同じなのですが、成功した者とそうでない者に分かれます。皇族や貴族に生まれるとか、歌舞伎などの芸事の家に生まれるとかを別にすれば、成功者とは金銭的に豊かになった人でしょう。

そうならば、若いときから稼いで、成功者にならないのは悔しいことです。経済的な成功ならば、生れや素性に関係しません。例えば、旧華族の末裔だと威張っても、有名な漫才師の収入には到底叶いません。

 

経済的な成功のためには、大きな夢を持つことが肝要です。そして、どっしりとした心と、よい部下を持つことを心掛けましょう。

日本でワインをつくって成功した会社があります。南米で鉱山開発に参画して一代で富をつくった会社もあります。高性能樹脂の特許で人知れず儲けている会社もあります。快速船を使ったオリジナルの物流ネットワークをつくった会社もあります。賃貸アパートの建築運営で儲けている会社もあります。遊休不動産の売買で、少しづつ大きくなった会社もあります。

これらの会社が、バブル崩壊後の25年ほどの急成長企業です。

 

現在は、東京への一極集中が加速しています。地方には、急成長しているのに評判にならずに、人知れず儲けている会社もあります。しかし、東京で成長すると、評判が評判を呼びます。社屋を綺麗にしたり、イメージ広告を打ったりすると、金が金を産みます。

㈱亀屋は総額三千万円のプレゼントが当る企画をおこないました。その後で、二百億円の借金を銀行に申し込むとすんなり通りました。

東京の繁栄は、大坂でも名古屋でも真似することが難しいほどになっています。古くからある会社の業績が落ちてくれば、変わって新しい会社が繁盛していきます。

現代の東京は、継続的に繁栄していっています。

 

そうは言っても、どんな人でも、家族が健康でその資産状態に応じて生活をすることが、単にお金をたくさん持っている家庭より幸せです。また、いくらお金があっても、跡継ぎがいないとか、配偶者と死別するとかしたら、やはり不幸です。

 

さて、三夫婦として有名なその家族は、祖父祖母は健康で、息子に嫁をとり、孫も成人して嫁を呼び、同じ家に夫婦三組で住んでいます。祖父は88歳、祖母は83歳、息子は59歳、その女房は51歳、孫は28歳で妻は二十歳です。全員が少しも病気にならず、いづれも仲良く、家業のほうも順調です。何事も無理をしないで、神様を祭り、仏教を信仰しています。

 

祖父が88歳米寿の祝いの正月に、誰かが言い出して升掻(竹べらで升に米を盛ったものを平に掻く)の行事をおこないました。縁起の良い升掻の祝いの映像をYouTubeに載せたところが、評判になって、このとき使った升掻の竹べらが評判になり大いに売れたそうです。

 

さらに、この升掻の祝いをした家庭では、ことごとく商売繁盛となったことから、益々人気が高まりました。「三夫婦の升掻」と名付けられて、米だけでなくいろいろなものを量って零れさすことが幸いを呼ぶとされました。東京の資産家が、三人のこどもに金やプラチナを升掻で量り分けて与えたというエピソードも知られるようになりました。

金銀はあるところにはあるということです。

 

さて、ここまで30回の連載で、聴き伝えられた物語を日本大福帳として記しました。

永久に保存して、将来これを読む人の為になればよいな」と願います。長引く不況とはいえ、現代の日本は季節の巡りも順調で、よく治まっていて、静かです。 

 

「永代蔵に治まる時津御国、静かなり」

 

 ~了~