VHSの国内生産がついに終了

今朝のテレビニュース 「VHS方式のビデオデッキの国内生産が今月末で終了」

 

とても感慨深いニュースです。NHKの記事を抜粋します。

 「VHS方式の家庭用ビデオデッキは、DVDレコーダーなどの普及に伴う需要の低下で、国内メーカーでは唯一、大阪に本社がある船井電機が生産を続けていましたが、部品の調達が難しくなったとして、今月で生産を終了すると発表しました。去年の販売台数はおよそ75万台にとどまったということです。・・・40年前に日本企業が世界で初めて開発し、世界中の家庭にVTRを普及させたとして「歴史的偉業」とまで言われたVHS方式の家庭用ビデオは、ひとつの節目を迎えることになりました。」

 

さて、若い人には「ビデオデッキを見たことがことがない!」という人もいるでしょう。VHS方式もそうでしょうし、ましてやベータ方式のビデオデッキだと、見たことがある人のほうが少ないかも知れません。

 

家庭用ビデオデッキは、製品としての完成度の高く、販売が40年と長期間に渡り、日本が世界を席巻したと言う意味で、空前絶後の家電製品でした。

 

 

私が就職先を探していたのは、VHS方式とベータ方式が、ビデオデッキの覇権を争っていた1983年でした。たまたま大学の学科の事務室で事務のお姉さん(おばさま?)と雑談していたときに、後に学長になるH教授が突然現れました。何せ、酷い成績の学生ですから、教授は鬼門です。ビビっていると、「ビデオで儲かっている会社があるから入社試験を受けてみないか?」と言われます。これがきっかけで入ったのが、ビデオやオーディオカセットで使われる磁気記録用材料の製造をしていた会社です。

 

入社の前後でVHSがベータに勝利して、当時の流行語でいう「デファクトスタンダード」となりました。VHSはベータに比べて、使用される磁性材料の量が3倍にもなりますから、会社は増産増産で大忙しです。お蔭様で、新入社員としては給料もよくて、賞与もたくさんいただけて、待遇もよかったです。その後もなんだかんだで20年以上、VHSに関連した材料の仕事をしました。私の人生にとって、VHSの存在は大きな意味がありました。船井電機さんにもお邪魔したことがありますし、ちょっと感慨深いです。

 

それにしても、何故VHSがベータに勝てたのか?というのは未だに少し謎ですし、興味深い事件でした。

VHSの勝利の原因は、ウイキペディアによると・・・

1)ファミリー形成を重視した展開。特に松下をグループに引き込んだこと。

2)普及期に廉価機の投入など戦略的な商品ラインナップを実現できたこと。

3)記録時間を最初から実用的な2時間に設定し、その後も長時間化に成功したこと。

4)レンタルビデオでVHSへとシェアが高まったこと。

5)ベータ規格のソニーによる広告戦略の失敗。

の5つが上げられています。

 

しかし、ベータはVHSより小型でコンパクトで画質も音質も優れていて、ソニーというブランドイメージも好ましかったと思います。故障やトラブルも少なくて、製品としての完成度は高かったと思います。少なくとも大差で負けるような製品では決してありませんでした。

ウィキペディアの5つの要因は、それぞれ、ほんの僅かな差でした。

1)商店街に松下のお店が東芝のお店よりほんの僅か多かった。

2)最初のうちVHSの価格がほんの僅かベータより安かった。

3)記録時間がほんの僅か長かった。

4)映画ソフトがほんの少し僅か発売された。

5)ソニーの広告が拙かった。(当時としては、洗練され過ぎていた?)

逆にベータが優れている要因を5つ書くことも容易です。

 

  ”ほんの僅か”の揺らぎが市場で連鎖し、共振していていって、大きな揺れを引き起こしたのです。しかし、ベータの揺らぎが何故大きくならなかったのか、それは謎です。

VHSの勝利は、人智を超えた天の配剤だったのでしょうか?

 

製造業の経営者にとって、自社の製品が「デファクトスタンダード」となることは至高の夢です。開発者や技術者にとっては、もっと強く夢見ることでしょう。

VHSもベータも(それ以外の規格も)、多くの人の夢を掛けた対象でした。これを機会に、振り返ってみたいと思います。