PM2.5だけでなくSOx(硫黄酸化物)も忘れない

大気汚染と言えばPM2.5が注目されていますが・・。SOx被害を忘れないことです。

 

環境関連のセミナーでお話したときに、SOx(硫黄酸化物)排出量を指標とすると意外な反応をされることがありました。若い世代の方では、大気汚染物質と言えばPM2.5が頭に浮かんで、硫黄酸化物ってナニ?という方も多くなっています。

 

日本の過去の公害で、被害が大きかったのは大気汚染であり、とりわけ硫黄酸化物によるものです。硫黄酸化物は化石燃料中の硫黄が燃焼によって酸化されて発生します。

SOxの、Sは硫黄・Oは酸素。xは硫黄酸化物には、二酸化硫黄と三酸化硫黄があるのでまとめています。

 

 

 

硫黄酸化物の人体への影響は呼吸器系の疾患としてあらわれます。気管支炎やぜんそくなどです。但し、急性毒性としてあらわれるだけではなく、長期間暴露に拠る慢性毒性としての疾患発生率・有病率・そして死亡率の増加というかたちをとることも多いのです。

 

硫黄酸化物の急性毒性で最も有名なのは「四日市ぜんそく」です。大気汚染の場合は直接的な被害者数が特定しにくいのですが、硫黄酸化物を原因として多くの方が亡くなっています。また最も大気汚染に弱いのは新生児や乳児です。当時の四日市では、乳児死亡率が異常なレベルで高くなっていました。

 

現在の大気中の二酸化硫黄濃度の基準は0.004ppm以下と定められており、昨年の実績は0.002ppmです。しかし、日本で観測網が整備された昭和48年の平均は0.017ppm(全国1125カ所)でした。多くの呼吸器系疾患の直接的・間接的な原因が硫黄酸化物にありました。

 

高度経済成長のなかで、大気汚染の原因となる物質は、先ずばいじん、次に硫黄酸化物、次に窒素酸化物、最後にPM2.5などの浮遊粒子状物質と変遷していきます。

 

いづれも化石燃料の燃焼によって発生するのですが、この順番で影響が直接的で大きく、且つこの順番で対策がとりやすいのです。つまり、最も被害の大きいけれど対策も容易なばいじんがまず解決されて、次にSOx・NOx・浮遊粒子状物質(SPM:PM2.5もその一種)というぐあいに対処する課題が移ってきます。

日本の発電所・工場・自動車などは、大気汚染対策として除塵・脱硫・脱窒を順に対応してきたわけです。

 

今、気になっているのは世界の大気汚染で大きな部分を占めている中国です。

PM2.5ばかり話題になっていますが、ばいじんやSOx・NOxなど容易に解決できる対象がそのまま放置されています。中国政府の発表で年間約2000万㌧の硫黄酸化物が排出されています。多くの場合、中国政府の発表は控え目ですから、2000万㌧以上ということです。

 

主要国の硫黄酸化物排出量は、アメリカが470万㌧・ロシアが450万㌧・日本が90万㌧といった水準です。(2012年)

 

いくら国土が広大と言っても、中国国内の大気汚染での健康被害は甚大なはずです。もちろん外からは伺うことはできません。さらに、中国に続く国々でも経済成長を優先して、硫黄酸化物による大気汚染の被害に片目を閉じるかも知れません。

 

現在の日本では、燃焼に伴う脱硫の技術は高度に完成しています。しかし、これから発展していく国や地域で受け入れられるような、新しい商品の開発をしていくことも大切でしょう。

また、歴史を忘れずに、過去の技術を引き継いでいきましょう。