日曜連載は、井原西鶴の「日本永代蔵:現代版アレンジ」です。第二十二回。
この章は長いので、今日は前編です。
”山崎に打ち出の小槌 水車は仕合せを待つやら”
(京都・山崎にある打ち出の小槌。水車のように休みなく働けば幸運が巡りくる。)
会社の経営というのは、1年中、昼も夜も、目まぐるしい変化のなかにあります。その変化の速さは、優れた数学者にでも計算してもらわなければわかりません。
多くの経営者は、春の決算時期に、気持ちが落ち込みます。このことは、秋の頃からわかってはいるのですが、そのときになって驚いてショックをうけるものです。
昔から、営業の人はいつも気を働かせ、技術や製造の人は一心に身を働かせています。そんな場合でも、仕事は当初の目論見より遅れがちになります。
このために、売掛金の回収だって、遅れがちになるものです。回収の心得は、売掛金が100万円あっても、回収できるのは1/3の33万円と見積もって、支払いにあてることです。そうすれば、会社の内情を社外に暴露することもありませんから、上手くいきます。
優れた営業マンは言いました。
「売掛代金は、回収しやすい相手からは早々に回収することです。あの顧客からは確実に回収できるはずだからと、後回しにしておいて事故がおこると最悪です。
優良顧客だからとサイトを延ばすようなことはしてはなりません。
支払の悪い顧客に、同情心を持ってはいけません。集金袋に魂を込めて、言葉使いは丁寧に、顔は厳しく、出された茶も飲まず、顧客のところに日参します。
雑談などは聞かない振りをして、新しい調度品でも目にしたら、「これは立派なものですね。発展する御社には誠にふさわしい。御社は、今年も業績が伸張されており、心よりお祝いを申し上げます。是非、当社のほうにも早々に代金を振り込みいただいて、次のお仕事に取り組んでいただきたいと存じます。御社に引き換え、私どもの会社は、いつもギリギリの商売をしておりますが、御社のお蔭さまをもちまして、これからも誠心誠意にご奉仕いたします。御社は私どもにとって、かけがえのないお客様でございます。長きのご愛顧を願っております。」と、顧客の会社を誉めて、理屈っぽく話をすれば、他社に先駆けて支払いをしてもらえるものです。
売掛金の回収は、営業マンの最大の仕事なので、決して軽んじず、真剣勝負で取り組むのです。」
また、多額の借金を抱えて何年にもなる人は言います。
「支払いサイトの長い購買というものは、双方の合意があって成立するのだ。つまり、売り手側が承知しているということは、例えば相場が1トン100万円のときに、105万円で買わされるというこことがあり得る。どうしたって高値買いすることになって、売り手が儲けて、会社の経営にはマイナスが多い。
資金が無くて、どうしても支払いサイトを延ばさなければならないなら、小口を延ばしてはならない。大口の取引にだけ絞ることだ。大口の支払なら、期日を少々延ばしても構わない。但し、1か月(30日)延ばしたら、その期日より早く10日目に支払うのがよい。
こうすると、相手側は期日より前に払ってもらったような気になって、恨まれることが少ない。もちろん、こんな方法はあくどいので、経営状態が悪くて、どうしようもないときしかやってはならない。」
さて、京都市に山崎屋エネルギーという老舗のエネルギー商社があります。
この山崎屋で社長の交替がありました。跡を継いだ新社長は、無類の綺麗好き(潔癖症)でした。会社の取り扱っているガソリンや灯油の取り扱いにも、一点のシミも許さない性格です。もちろん、綺麗好きは好ましいのですが、度が過ぎました。
当社の利益はガソリンや灯油から来ているので、新社長の下で年々業績が悪化していきました。いつの間にか、会社の経営は傾いていきました。
綺麗好きも高じると、塵の中に住んでいる福の神を、竹箒で家の外に必死で掃き出すようなことになります。ついには、先代までの資金を食いつぶし、閑古鳥が鳴くようになりました。
新社長は、何とか会社を立て直したいと神仏に祈るのですが、その甲斐もなくリストラして人員整理をするしかなく、どんどん落ちぶれていき、何ともうまくいきません。
仮に儲けの種があっても、準備が出来ていなければつかむことはできません。かといって、会社を潰して、出家するわけにもいかず、「とにかく、捨て身になって働けば、いくら時間がかかっても、会社を再建することもできるはずだ」と心を決めました。
<以下、次週・後編に続く>