2016年の日曜連載は、井原西鶴の「日本永代蔵」にしてみます。江戸時代に書かれた全30篇の短編経済小説集です。今風にアレンジして連載してみます。
大阪にある水間寺の観音さまはお金儲けにご利益があると人気が高い。
たくさんの参拝者がやってくるが、信仰心があるわけでなく、金儲けがしたいだけだ。どの参拝者も、賽銭に小銭を投げては「金儲けができますように。」と一心に手を合わせる。
拝まれている観音さまのほうは、「この世にぼろ儲けなんかありゃしない。自分の仕事を、朝から晩まで一生懸命にすれば、自然に金は溜まる。」と、参拝者に一生懸命に告げている。ただ、情けないことに、この観音さまの声は参拝者の耳には聞こえない。
水間寺には、いつの頃からこんな言い伝えがある。
「2月の初午の日に、水間寺で金を借りて仕事をすれば大儲けできる。但し、翌年の初午の日に倍にして返さないと仏罰が当たる。」
もちろん欲深な坊さんが言い始めたことだ。金を貸しても倍返しなら、濡れ手に粟の大儲け。最初のうちは信じるものもあったのだが、そうはうまくはいかない。
このところの参拝者は10円とか多くても100円とかを賽銭のつもりで借りて、翌年20円とか200円を返している。
あるとき、参拝に来た千葉の漁協の組合長が10万円を借りると願い出た。
窓口担当者は何気なく10万円を貸し付けた。後になって、それを聞いた寺の役員たちは10万円も借りるなんておかしいぞ。それは返す気がないだろうと、話し合って、それっきりお金を貸すのはやめにした。
千葉に戻った組合長は、組合員の漁師たちに水間寺の観音さまのありがたいお金だと、豊漁のお守りとして千円ずつを貸し付けた。信心深い漁師たちは、豊漁だったら観音さまのお陰、海が荒れたら無事に戻ったのは観音様のお陰と感謝したので、きちんと二千円の金を組合長に返した。
そのうち、観音さまから金を借りると豊漁になるとか荒天でも無事に戻れるという噂が、隣の漁協の漁師たちにも広がった。組合長は、ありがたい千円札をどんどん貸し付けた。
信心深くて律儀な漁師たちから帰ってきたお金で、組合長はどんどん儲かった。立派な家を建て、豪勢な暮らしをしても十分だ。
そんなこんなで13年の月日が経ってしまった。あんまり儲かったものだから、組合長も水間寺に倍返しをしないと罰があたると考えた。
2年目には20万円・3年目には40万円・・13年目だから倍返しだと8億1920万円になる。
手元には10億円をはるかに超える金がたまっていたので、大阪まで行って、ポンと8億1920万円をお返しした。水間寺の坊さんたちは、驚いたの喜んだの・・。組合長の名前で豪華な宝塔を建立して、称えることになった。
これがまたよい宣伝になっていて、それまで以上にたくさんの漁師たちが金を借りにやってくる。みんながきちんと倍返しをしたので、これまでにも増して、お金がどんどん集まってくる。
とうとう使い道に困り果てる有り様となったとか・・。