アメリカの環境当局者の、「こんなふうにだまして逃げ切れると思うなんて、想像をはるかに超えている。」という発言が全てを言い表しています。
フォルクスワーゲンの不正は常軌を逸しているとしか思えません。しかし、日本の製造業に対しても重大な警告と考えるべきです。
今回の不正は、クルマの電子制御装置内のソフトで、試験走行中は排ガス浄化機能を作動させるが、通常走行時は機能を無効にするというもの。対象となるクルマは、欧州と米国で1100万台に上ると言います。
世界一の自動車メーカーVWとはいえ、1100万台は年間販売台数を上回ります。今後のかじ取り次第では、経営の大転換が必要になりますし、世界経済への影響も甚大です。
しかも、不正ソフトの疑惑を欧州では2013年2月に、米国でも昨年3月に、それぞれ公的な機関から指摘されていながら、測定上の誤差だとかなんとか言い逃れをして認めなかった。もとより規制値の5倍から最大40倍という計測値が、誤差であるはずもない。結局、今年の8月21日に不正を認め、9月18日に公表したという顛末です。俄かに信じられないような内容です。
さて、現代のものづくりの世界では、不正は増えています。特に、情報関連の不正は満ち溢れていると言ってよい状況です。このことは、多くの人が認知しています。
また、グローバル化が不正の増殖につながっています。グローバルな社会では、生産者が消費者に直接1:1で向き合ってモノを渡すということが難しくなります。物流や代理店、政府や規制機関などのネットワークが介在することで、ビジネスの不正が指数関数的に増加しました。(不正は悪ではなく文化であるような国や地域も存在します。)
それほど不正に慣れた私たちにとっても、今回の事件は衝撃的です。
まさか、あの勤勉と信頼の国・ドイツを象徴する企業VWが、欧州と米国の顧客を会社を上げて、長年に渡って欺くとは、信じられません。しかも、手口は悪質ですが、陳腐です。「だまし切れる」と考えるのは無理です。
ドイツを含む欧州においても、企業の不正は増えているということです。2013年の調査では、経営陣の不正が21%・財務の不正が17%の企業で発見されていて、いずれも前年より増えています。
ところが、欧州では不正防止対策を取っていない企業が他の地域に比較して多くなっています。不正が日常的に起こる地域では、逆に不正対策もしっかりやろうと思うわけです。しかし、頻繁に被害者にはなっても、加害者にはあまりならない地域では、自らの内部にある不正に気づかない傾向があります。
欧州と全く同じことが日本でも言えます。大手電機メーカーの例に限らず、明らかに日本企業の不正は増加しています。
しかし、日本企業の国内での不正防止対策はどこか甘いものになっています。従業員(特に日本人従業員)に対して、あるいは自社の経営陣に対して、根拠の乏しい信頼感を持っています。不正は、内部の人、経営陣あるいは従業員がするのです。
現状をしっかり理解して対策を取らなければなりません。