人類が最初に使った着色材は酸化鉄です

人類が酸化鉄顔料を使用した最も古い痕跡は、今からおよそ10万年前のものです。

 

酸化鉄の製造に、濃淡はいろいろありますが、約30年に渡り関わりました。10年ほど前までは、酸化鉄顔料のことについて、話をすることも多かったので、久しぶりに触れてみます。尚、顔料とは、着色に使う材料のうちで、水や溶剤に溶けない粉末です。溶けるものは染料です。 

 

酸化鉄とは、簡単に言えば鉄が酸化したもの(鉄さび)です。地球上の元素では鉄が最も多いのですが、その鉄が酸素と反応すると自然に酸化鉄ができます。だから、酸化鉄は身近にたくさんあります。鉄と酸素のくっつき方で、主に赤色・黄色・黒色の酸化鉄があります。

 

顔料として、最もよく使われるのは赤色で、よく「ベンガラ(弁柄とか紅柄)」と呼ばれます。また、面白いのは、黒色の酸化鉄には磁性(磁石の性質)があることです。酸化鉄や酸化鉄合金は、磁性を活かして電子部品の材料としても多く使われます。

 

さて、以前は酸化鉄顔料の歴史を語るとき、フランスのラスコーとスペインのアルテミラの二つの洞窟壁画から話し始めていました。どちらも、およそ1万7千年前に描かれていて、バイソンや雄牛の赤い画が有名です。天然の酸化鉄を含む鉱石を、砕いて粉末にして顔料として使っています。

 

ところが、15年ほど前にフランスのショーヴェ洞窟で3万7千年前の、ライオンを描いた壁画が発見されました。酸化鉄や雲母などの天然顔料を使った古代の芸術です。

そして、5年ほど前に南アフリカのブロンボス洞窟で見つかった貝を開けてみると、赤い酸化鉄顔料が見つかりました。壁画は残っていないので、道具や身体の装飾に使ったものと思われます。科学的に年代測定をした結果、約10万年前のものでした。

こういうわけで、最近では酸化鉄顔料の歴史は、ブロンボス洞窟から始めています。 

 

酸化鉄粉末は古くて新しい材料です。顔料としても高級化粧品から巨大船や土木建築まで幅広く高性能なものが開発されています。先に触れた、磁性材料としても用途は広がっていますし、環境触媒や医療用に用いられる特殊な材料もあります。

今後も注目していってください。