日本で発明された正札(定価)販売

小売業の場合、売れるかどうかは、どういう価格にするかで決まることがよくあります。

  

海外に行って買物をすると値段というのは曖昧で、交渉によって決まるのが当たり前です。

 

日本人の多くは、これが苦手で、相手の国の人も日本人と判ると一層吹っかけてきます。私も自宅への土産物としてマーケットで食品を買ったことがあります。最初の値段の半額近くに値切って買ったので、これは得をしたと思って帰国して家内に渡しました。すると、「近所のスーパーでもっと安く買えるわよ」と言われて意気消沈したことさえあります。小売りの値段に掛け値をすることは、古今東西で普通のことです。

 

ところで、海外観光客のアンケートでは、日本の好印象は「値札通りにモノが買えて価格が妥当(安い)こと」というのが必ず上位にきます。実は、世界中の人も価格交渉はストレスなんですね。

 

正札(しょうふだ)販売を世界で初めておこなったのは、延宝元年(1673年)に三井高利が開いた呉服商の越後屋です。正札販売は、日本人の「発明」なのかも知れません。

 

日本でもこれ以前の商習慣では、掛け値があって正当な利潤以上に最初の価格を決めていました。それを顧客と個別に交渉することで下げていくやり方です。越後屋の正札販売が繁盛したのは、原価に適正な利潤を乗せた価格を正直に誠実に伝えたことで、顧客の信頼を獲得したことです。

 

また、理由のない値引きをおこなわないので、同じ商品なら誰でも同じ値段で買えます。同じものを自分より安く買った人がいると気に食わないものですが、越後屋ではそれはありませんでした。正札販売をすることは、商売に対して誠実であるということです。

 

現在の小売業では、顧客の囲い込み戦略で多種多様なサービスを提供しています。あまりエスカレートすると、誠実性(正札は原価に最低限必要な利潤を加えた価格)に傷が着きかねないので注意が必要です。経営破たんした某総合スーパーは、顧客が納得できる範囲以上の割引制度を導入したことが、風評となって顧客離れにつながりました。

 

ちなみに「札付きのワル」と言うのは、正札がついた掛け値無しの悪い人という意味です。バグダディとその一味のことなどを言います。